「いつか」と思っている人のところにチャンスはやってこない

――今作のキリトと同い年の中学2年生のときは、どのような少年でしたか?

松岡 将来的な夢のヴィジョンで迷い始めていた時期でした。ちょうどその頃に友だちが貸してくれたアニメを観て、とある声優さんに衝撃を受け、完全に“やられて”しまって。そこで声優という仕事にすごく興味が湧いてきたんです。一方で、その頃は『頭文字D』やゲームの『グランツーリスモ』に熱中していて、将来は自動車の整備士に就こうと思っていました。この二つの夢が僕の中で常にバランスを取り合っていて、整備士の方に気持ちが傾いたとしても、どこか声優への想いが拭えず。中学3年生になり進路相談で先生に相談しました。この時は今でも鮮明に覚えています。「声優という職業を目指してみたいんです」と希望を持って言ってみたところ、「なれるわけないよ。何考えているの?」と、メチャクチャ辛辣な言葉で見事大否定されてしまって(苦笑)。正直このことが尾を引いて、高校3年生の進路を決める日まで「やりたい。けれど、なれるわけない」と、葛藤していました。ですが、そこで折れることはなく、自分の性格上、何かしら思うことがあれば必ず試してみたくなるんです。どんなに「無理」と人に言われても、僕が「行けるかな?」と思えば続けますし、その逆もしかり。とにかく自分の気持ちを大切にしたい人間なんです。

――葛藤を乗り越え、本格的に声優の道へ進もうと思ったきっかけは?

松岡 高校3年生のときに担任の先生との進路相談で、声優に挑戦するか悩んでいると相談したんです。正直ここでも否定されてしまうのではと怖くなり、言うかどうか躊躇したのですが、思い切って言ってみました。担任の先生は「いいね、挑戦してみなよ。ただダラダラするのはよくないから期限を決めて、自分なりに納得がいくまで一度やってみるのはどうだろう」と、背中を押してくださったんです。本当にこの一言に救われて、声優への道へと舵を切る勇気が湧いてきました。ただ、両親に相談したところ、親父からは中学の先生と同じように「なれるわけないだろ!」と大反対を食らってしまい(苦笑)。この一言にはさすがに折れかけました。母は「期限は4年、その期間に声優になれなかったら帰ってきなさい」と、背中を押してくれました。ちょうど母の友人に自動車関連の仕事をやっている方がいて、高校卒業後はそちらで働く予定だったんです。もし、声優になれなかったら、もう一度その方に真摯に頭を下げて、自動車関連の仕事に進めばいいと言われたことで、その4年の期間は必死に頑張り続けようと心に誓いました。

――夢を抱いても一歩踏み出せずに悩んでいる方には、松岡さんのこのお話はすごく刺さると思います。

松岡 未知の世界に一歩踏み出す瞬間って怖いもの。それでも、しっかりと少しでも息抜きしながら一歩ずつ前に進んでいけば、結果的に夢が破れたとしても、その経験は人生の糧として残って、必ず後の人生へと活かせるはずなんです。決して失敗することは無駄なことじゃない。キリトが『ユイの心』(第1シーズン・第12話)という回で「疑って後悔するよりは、信じて後悔しようぜ!行こう、きっとなんとかなるさ」という、すごく良いセリフを言うんです。このセリフを僕の言葉で言い直すなら「やらないで後悔するより、やって後悔しようぜ!」(笑)。たとえ後悔しても、その後に悔しい気持ちが前に進む原動力になると思うんです。とにかく「自分には」と思っている人ほど、前へ踏み出してほしいです。「いつか」と思っている人のもとにチャンスは訪れません。待っていても大丈夫なことって宝くじぐらい。自分の未来のために、まずはその一歩を踏んでみてください。ただ、やるならば怠けるのではなく、ちゃんとやることが必須。自分の未来のために真剣に向き合うことは大切ですからね。

Information

劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』
2021年10月30日(土)公開

原作・ストーリー原案:川原 礫(「電撃文庫」刊)
原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec
監督:河野亜矢子
キャラクターデザイン・総作画監督:戸谷賢都
アクションディレクター・モンスターデザイン:甲斐泰之
サブキャラクターデザイン:秋月 彩・石川智美・渡邊敬介
プロップデザイン:東島久志
美術監督:伊藤友沙
美術設定:平澤晃弘
色彩設計:中野尚美
撮影監督:大島由貴
CGディレクター:織田健吾・中島 宏
2Dワークス:宮原洋平・関 香織
編集:廣瀬清志
音楽:梶浦由記
音響監督:岩浪美和
音響効果:小山恭正
音響制作:ソニルード
プロデュース:EGG FIRM・ストレートエッジ
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
製作:SAO-P Project

【CAST】
キリト:松岡禎丞
アスナ / 結城明日奈:戸松 遥
ミト / 兎沢深澄:水瀬いのり
クライン:平田広明
エギル:安元洋貴
シリカ:日高里菜
ディアベル:檜山修之
キバオウ:関 智一
茅場晶彦:山寺宏一

【音楽】
「往け」 LiSA(SACRA MUSIC)
作詞:LiSA /作曲:Ayase /編曲:江口 亮

©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

あの日、《ナーヴギア》を偶然被ってしまった《結城明日奈》は、本来ネットゲームとは無縁に生きる中学三年生の少女だった。ゲームマスターは告げた。《これはゲームであっても遊びではない。》ゲームの中での死は、そのまま現実の死につながっている。それを聞いた全プレイヤーが混乱し、ゲーム内は阿鼻叫喚が渦巻いた。そのうちの一人であったアスナだが、彼女は世界のルールも分からないまま頂の見えない鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》の攻略へと踏み出す。死と隣り合わせの世界を生き抜く中で、アスナに訪れる運命的な《出会い》。そして、《別れ》――。《目の前の現実》に翻弄されるが、懸命に戦う彼女の前に現れたのは、孤高の剣士・キリトだった――。

公式サイト

松岡禎丞(まつおか よしつぐ)

声優

1986年9月17日生まれ。北海道帯広市出身。高校卒業後、日本ナレーション演技研究所に入所。2009年にアイムエンタープライズのオーディションに合格。同年『東のエデン』のAKX20000役でデビューを果たす。2011年、『神様のメモ帳』の藤島鳴海役で初主演を果し、第6回声優アワード新人男優賞受賞。2012年に『ソードアート・オンライン』のキリト役に抜擢。以後、『鬼滅の刃』嘴平伊之助役、『呪術廻戦』究極メカ丸役、『食戟のソーマ』幸平創真役、『五等分の花嫁』上杉風太郎役など、数々の作品への出演に加え、ラジオ「松岡ハンバーグ」パーソナリティ、テレビ・CMのナレーションと幅広く活躍中。2016年には第10回声優アワードで主演男優賞を受賞。

Photographer:Hirokazu Nishimura,Interviewer:Syunsuke Taguchi