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現代音楽のリスペクトに溢れた新しい青春映画

「10万分の1秒の音響映画祭」はその名の通り、映画にとって要である〈音〉にこだわり、音響専門家が10万分の1秒単位まで徹底的に調整を重ねた映画祭。スピーカーの位置関係によって生じる僅かな音のズレを極限まで解消し、滲みのない真の音響体験を堪能できるのがウリだ。

本映画祭では邦画、洋画、ジャパンアニメなど、様々なジャンルの作品がラインナップされており、オープニング作品として音楽をテーマにした話題の映画『ミュジコフィリア』がプレミア上映された。

舞台挨拶の模様をお伝えする前に、映画『ミュジコフィリア』について紹介する。原作は、『漫画アクション』(双葉社)に2011年から2012年にかけて連載された漫画。作者のさそうあきらは、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を2度も受賞した実績を誇り、本作はさそうによる音楽への深い愛情と造詣に裏打ちされた〈音楽シリーズ三部作〉の完結作として現在も高い人気を誇る。

主人公の漆原朔は京都の芸術大学に通う学生だが、実は高名な作曲家である貴志野龍を父に持ち、若き天才作曲家として注目を集める大学院生、大成とは異母兄弟という関係だった。

天性の音楽の才能を持ちながらも、父と兄のコンプレックスから音楽に対して憎しみを抱いて生きていた朔だが、ひょんなことから「現代音楽研究会」に巻き込まれてしまう。

同じく天性と言える音感を持つ新入生の浪花凪をはじめ、様々な個性豊かな人物たちとの出会いを経て、朔は音楽と人生に正面から向き合い始める。そして現代音楽の世界に身を投じ、自分の音楽を創り上げていくのだが――。

まさに「10万分の1秒の音響映画祭」のオープニングを飾るのに相応しい、音楽をテーマにした作品。原作・映画と共に現代音楽のリスペクトに溢れており、豊かな音楽世界を楽しめる仕掛けとなっている。

さらに映画化にあたり、京都市の全面協力によってオール京都ロケが敢行された。

本作は重要文化財である泉湧寺に初めてカメラが入るなど、京都ならではの貴重な撮影を実現させた一方で、いま現在の「等身大の京都」を描くことにも力点を置いた、今までになかった新しい青春映画だ。

脚本・プロデュースは『太秦ライムライト』(14年)で知られ、実際に京都大学在学中にミュージカル劇団を旗揚げした大野裕之。

監督は映画『時をかける少女』(10年)、ドラマ『人質の朗読会』(14年)で知られ、京都出身の谷口正晃。

音楽を奏でるためにひたむきに楽器を猛特訓したキャスト陣

本作のプレミア上映前に、井之脇海、松本穂香、川添野愛、谷口正晃監督の4人が颯爽と登壇。

本作が初主演となる井之脇は、TOHOシネマズ日比谷の大スクリーンを目の当たりにして、「こんなに大きい会場だとは思ってなくて、とてもビックリしています」と驚きを隠せない様子。

主人公の朔は天性の音楽の才能を持つという設定だが、井之脇は朔を演じるにあたって、「朔は自分が天才だと誇示するような青年ではなく、音楽への愛に溢れていて、人として純粋さを持っている。僕自身も今回の撮影で現代音楽というものに触れて、改めて音楽の楽しさを感じることが大切だと思いました」と、現場に臨んだ時の様子を振り返った。

井之脇海

劇中で朔がピアノを演奏するシーンについて、井之脇は撮影に入る前にピアノを猛特訓したという。さらに「撮影に入ってからもプロデューサーにワガママを言って、ホテルに無理やりピアノを置いていただいて、夜な夜な練習していました」と、演奏シーンに意欲を燃やしたことを明かす。

司会者から「大変だったのでは?」と心配されるも、「ピアノの練習がむしろリラックスとなって、撮影の疲れを癒してくれたんです。ピアノと一緒に撮影を乗り切ることができたと思っています」と満面の笑みを見せた。

朔がほのかに想いを寄せるヒロインで、劇中で歌を披露する絶対音感の持ち主である浪花凪を演じる松本穂香は、「凪はコミックだからこそ表現できる歌声だと感じていた」と、実写で表現することに不安を抱いていたという。

松本穂香

しかし、「歌の先生を紹介していただいて、原作の凪のような伸びやかな歌声を表現できるようにボイストレーニングを繰り返しました」と、自信のほどを覗かせる。さらに劇中では歌だけではなく、ギターを演奏するシーンもあり、井之脇と同じように「私もホテルにギターを持ち込んで練習していました」と述べる。

朔の異母兄弟である大成の恋人・小夜役を演じた川添野愛も、劇中でバイオリンを演奏するシーンがあり、「私もバイオリンは初めてでしたが、母が子どもの頃に使っていたバイオリンで演奏することになり、撮影に入る前から肌身離さず持ち続けて現場入りしましたね」と振り返る。

川添野愛

さらに小夜は京言葉で話す生粋の京都人という役柄で、役を演じるにあたって苦労した点を尋ねられると、川添は「脚本の大野裕之さんが、自らの声で小夜の台詞を話された音声データをいただいきました」と、大野の気遣いに感謝を述べる。

アットホームで暖かい雰囲気に包まれた撮影現場だったことが伝わってくる。

サプライズで山崎育三郎がビデオメッセージで登場

3人のキャストによる撮影現場での思い出話に花が咲き、観客の期待と興奮は高まっていく。

谷口監督も、「出演者の皆さんが本当に素晴らしい芝居をスパークさせてくれました」と笑顔を浮かべて、本作の出来に手応えを感じた様子。そして、「僕はそのエネルギーをさらに押し上げるような舞台を用意しなければならない。賀茂川や大文字山など、ロケ地にはかなりこだわりました」と述べる。

その監督の言葉通りに、朔のピアノ演奏に合わせて凪が歌を披露する場面は、実際に賀茂川の中州に本物のピアノを設置して撮影が行われたという。ファンタジックでありつつ、朔と凪の絆を象徴した、本作の中でも特に印象深い名シーンだ。

谷口監督は「賀茂川をロケハンしていたら、ふと中州が目に付いたんです。『あそこにピアノを置きたい』と言った時、スタッフは目を白黒させていました」と懐かしむ。朔のピアノと凪の歌の結びつきを表現するには大胆なアプローチが必要とは言え、なんとも突拍子もない発想。しかし、予告編でも多くの人の心に残ったシーンであり、監督は「結果的に大正解だったと思います」と会心の笑みを浮かべる。

谷口正晃監督

井之脇は「実はあの演奏シーンはピアノの楽譜が用意されていなくて、監督に『アドリブで弾いてほしい』と言われて、戸惑いました」と裏話を明かす。しかし、「中州に立ってみると、そこから見える景色や松本さんの歌声が言葉にならないぐらい素晴らしくて、そういった現場の雰囲気に背中を押されて楽しんで演奏できました」と、エモーショナルな体験だったことを興奮気味に語る。

松本も「2人の可愛い空気が画面に映っていたらいいなと思います」と、満面の笑みを見せた。

撮影現場でのエピソードの数々に観客たちは早くも映画の世界に酔いしれる。さらにサプライズとして、舞台挨拶に参加できなかった山崎育三郎からのメッセージビデオがスクリーンに映し出されて、会場のボルテージが最高潮に達した。

山崎演じる貴志野大成は、新進気鋭の作曲家としてのカリスマ性と天才ゆえの翳りを併せ持つ孤高の存在。劇中で朔の前に大きな壁として立ち塞がり、物語に大きなうねりをもたらす。

実際に音大に通っていたという山崎は爽やかな笑顔で、「何と言っても井之脇海くんとのピアノを連弾するシーンはお互いの思いをぶつけ合ったので、自分でもグッときました」と、本作の見所を紹介。

山崎のメッセージを受けて、井之脇は山崎との連弾シーンについて、「互いにどのパートを弾くのか曖昧なまま撮影に入ったのですが、育三郎さんは『キッチリとパートを決めずに、ここはアドリブで弾いてみようよ』と優しく提案してくれました」と、お互い手探りの状態で臨んだからこそ、2人の自然な息遣いがスクリーンに収まっていることをアピール。

松本も「待ち時間の間、育三郎さんがピアノを弾き始めたのですけど、あまりにもカッコよすぎて、『カッコいい!』って思わず声を漏らしました。本当に爽やかすぎる方でした」と目を輝かさせた。川添も「私は恋人役でしたが、待ち時間の間にプライベートなお話までさせていただいて、本当に気さくで素敵な方でした」と、山崎の暖かい人柄を振り返る。

あっという間に楽しい時間は過ぎて、最後は井之脇の言葉で締めくくられた。「俳優業を16年間やらせていただいて、初主演作が上映される喜びを心から感じています。この映画は主人公の朔が音楽を通して様々な人々と心を通じ合い成長していく物語で、思うように人と会えない昨今、きっと心に響くものがあると思います」

主演の井之脇海をはじめ、出演者1人1人のエネルギーが音楽を通して詰め込まれた青春映画『ミュジコフィリア』は2021年11月12日(金)京都先行公開、11月19日(金)TOHPシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。

Information

『ミュジコフィリア』
2021年11月12日(金)京都先行公開、11月19日(金)TOHPシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

井之脇海 松本穂香
川添野愛 阿部進之介
縄田カノン 多井一晃 喜多乃愛 中島ボイル 佐藤都輝子
石丸幹二
辰巳琢郎 茂山逸平 大塚まさじ 杉本彩/きたやまおさむ 栗塚旭
濱田マリ 神野三鈴
山崎育三郎

原作:さそうあきら「ミュジコフィリア」(双葉社刊)
主題歌:松本穂香「小石のうた」(詞・曲:日食なつこ) 主題ピアノ曲:古後公隆「あかつき」「いのち」
脚本・プロデューサー:大野裕之
監督:谷口正晃
©2021 musicophilia film partners ©さそうあきら/双葉社

京都の芸術大学に入学した朔(さく)は、ひょんなことで「現代音楽研究会」に引き込まれる。クセの強い教授や学生たちが集まるそのサークルには、朔が憧れてきた幼なじみでバイオリニストの小夜(さよ)、そして若き天才作曲家として将来を期待される大成(たいせい)がいた。実は、大成は朔の異母兄で、朔は天性の音楽の才能を持ちながらも、父と兄へのコンプレックスから音楽を憎んできたのだ。だが同じように天性の音感と歌声を持ち朔に想いを寄せるピアノ科の凪(なぎ)が現われ、朔の秘めた才能が開花しはじめる――。

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Reporter Atsushi Imai,Photographer Keita Shibuya