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どんな状況であれ私がやるべきことは一緒

――今回、主人公の漆原朔(井之脇海)の幼なじみで「現代音楽研究会」メンバーでもある谷崎小夜を演じていますが、役の印象を教えてください。

川添 クセ者ぞろいの学校の中で、一見すると小夜はそんなに賑やかなタイプではありません。でも、小夜なりに内に秘めた静かな炎みたいなものがあるんだろうなと思いましたし、実際に小夜の行動や決断、それに人のことをちゃんと思いやることができるのは強いと感じました。

――ご自身との共通点はありますか?

川添 何かをすごく好きになる気持ちはわかるというか、ほかのことがどうでもよくなるくらい、「これが私のすべて」というような経験は私にもあるので、その感覚は一緒なのかなと思いました。

――小夜は大学院生のバイオリニストですが、どのように役作りをされましたか?

川添 彼女の根源にある強さをぶれずに持っておくという意識が一番大事だと思いました。あと、私は東京出身なので、ロケや撮影へ行ったときにその土地の雰囲気を感じ取って、自然に自分が溶け込んでいけるように意識しました。

――京都が舞台ということで、川添さんも京都弁を話されています。

川添 脚本家でプロデューサーの大野裕之さんが、自分の声で小夜のセリフを(京都弁で)録ってくださったんです。移動中はずっとその大野さんの声を聞いて、台本に音の高低差を書き込んだりしていました。

――初登場のシーンからバイオリンを弾いていらっしゃいましたが、これまでバイオリンの経験はありましたか?

川添 まったくなく、触れたこともなかったです。ただ、私の両親が子どものころにバイオリンをやっていたので、実家に楽器はありました。

――バイオリンの稽古はかなり大変だったとお聞きしました。

川添 音楽プロデューサーの方に先生をご紹介していただき、マンツーマンで熱心に教えていただきました。小夜の立場としても中途半端なものは駄目なので。楽器を触ることはすごく好きなのですが、撮影が終わった後はしばらく見たくないと思いました(笑)。

――恋人である貴志野大成役の山崎育三郎さんとは初共演とのことですが、ご一緒されていかがでしたか?

川添 お会いする前は出演されている作品などから上品なイメージを持っていましたし、そういう意味では大成という役にピッタリという印象でした。お会いしたらとてもフレンドリーで、どんな年齢層や性別の方ともすごく気さくにお話しをされていて。私にも、自分がなぜこの仕事を始めたのかというお話を幼少期から詳しくしてくださって。一回始まるともう止まらないくらい(笑)。少年のようなお顔をしてお話してくださるのですが、こういうところがまた周りの人の心を掴むんだろうなと思いました。

――撮影中もみなさんをリードする存在だったようですね。

川添 私と2人での演奏シーンも、山崎さんはその場で初めてその譜面を見たのに、さらっとピアノを弾かれていて、「この人はどこまで完璧なんだ!」と思いました(笑)。山崎さんは緊張感がある場でも、冗談を言って和ませてくれて、とてもリラックスできました。

――撮影もわきあいあいと進んだようですね。本作はバイオリンをはじめ新しいことにも挑戦しましたが、役者として新たな気づきはありましたか?

川添 最初はやはり演奏のクオリティーのことで頭がいっぱいになってしまうんじゃないかと思っていました。でも、そうならずにいつも通りお芝居に集中することができたのは、谷口監督が大事なシーンで気持ちを作ることを優先させてくださって。そういう空気感を作っていただいたおかげもあって、どんな状況であれ私がやるべきことは一緒なんだということを改めて感じました。

逃れられない運命だと思い、逃げずにお芝居向き合ってみようと思った

――川添さんのキャリアについてお聞きしていきます。6歳から約12年間、杉並児童合唱団に在籍されていますが、入団したきっかけを教えてください。

川添 子どものころからよく家で歌っていたんです。歌が好きとか意識的なことではなく当たり前のように。そのことを母が知り合いに話したら、杉並児童合唱団を紹介してくださったんです。

――歌に限らず芝居やバレエなども学ばれたそうですが、そこまで長く続けられたのはなぜでしょうか?

川添 シンプルに好きで楽しくてしょうがなかったからです。それしか見えてないっていうくらい、のめり込みました。活動も忙しくて夏休みもほぼなかったり、地方公演やメディア出演もする団体だったので、小学生ぐらいからほとんど家にいない生活でした。それでも中学3年生くらいまではまったく苦にならなかったです。

――高校入学から意識の変化があったということですか?

川添 高校からは地元を離れて私立に行ったんですけど、そこが自由な学校で、個性的な人が多かったんです。高校に入学して初めて、「舞台や芝居が楽しいことは知っているけど、それ以外のことは何も知らない」ことに気づいて、途端に息苦しくなって、合唱団が楽しくなくなってしまいました。あとは、それだけ続けた中で自分に限界を感じたというか、自分より上手い人が周りにたくさんいたので、これ以上続けても何か変わるんだろうかと。高校生になって、自分がこれから何者になっていくのかみたいなことを考え始めた時期だったこともあって、一度ここから離れようと思いました。

――そして18歳の高校卒業を機に合唱団を退団、その後は多摩美術大学に進学されます。

川添 本当は表現というものから離れたかったので、当初は留学を考えていました。でも、私の友達に小さいころからずっとタップダンスを続けている子がいるんですが、その子が大学でもっと表現のことを勉強するために芸術系の大学に進んだことを聞いたとき、あれだけ離れたいって思っていたはずなのに離れることに違和感を抱く自分がいて。それが高校3年生の秋で、もう指定校推薦が決まり始めている時期だったんですけど、「やるしかない」と思って片っ端から表現ができそうな大学に調べて多摩美に決めました。

――ご両親の反応はいかがでしたか?

川添 小さい時から慎重派ですが、思い立ったときのスピードが凄く速いので多分諦めていたんだと思います。何かをやってと言われても、自分のタイミングが来ないとできないタイプなので、自由にさせてもらいました。でも、「自分の責任は自分で取りなさい」ということは子どもの時から言われていました。

――表現のために多摩美に入られましたが、そこからなぜ、女優の道に進もうと思ったんでしょうか?

川添 きっかけとしては多摩美の教授だった青山真治監督と出会ったことです。青山さんのことが好きで多摩美に入る人もたくさんいて、私ももちろん知っていました。学内で青山さんに声をかけられて、「ちょっと出てくれ」と言われたり、青山さんが手掛けるドラマに呼ばれたりして。声は掛けてもらったものの、最初は全然仕事にするつもりはありませんでした。

――芝居することに抵抗はありましたか?

川添 お芝居自体はきっと好きなんだろうなという自覚はあったんですけど、私の実力で仕事になるとは思っていなかったです。でも、あれよあれよと2年間くらい続けていたときに、これは逃れられない運命だと思い、逃げずにお芝居に向き合ってみようと思いました。

――その時、自分の将来についてはどう考えていましたか

川添 将来のことはわからなかったです。本当に思い立ったら動くタイプで、正直、明日の自分のこともよくわからなくて、想像つきにくいというか。日本だけに留まらないで国境を越えていきたいとか、家族を持ちたいとか、そういうことは漠然と考えてはいたんですけど、なるようになると思っていました。

先入観や固定観念にとらわれず一回受け入れて楽しんでみる

――現在は女優として映画にドラマ、舞台と活躍していますが、今後挑戦されたいことはありますか?

川添 ラジオがやりたいです!もともと父がラジオ好きで、私も子どものときから大好きです。「NISSAN あ、安部礼司 ~ BEYOND THE AVERAGE ~」(TOKYO FM)というラジオドラマから本格的にハマりました。今はマンボウやしろさんと浜崎美保さんがMCの「Skyrocket Company」(TOKYO FM)が大好きでよく聞いています。ラジオっていろんな人とお話しすることもできるし、何を考えているのか知ることもできる。私にもそういう場所があるといいなと思っています。

――お仕事以外でやりたいことはありますか?

川添 今、星野道夫さんのエッセイを読んでいるんですけど、アラスカに行きたくてしょうがないです(笑)。もともと星野さんの写真がすごく好きなんですけど、そのエッセイの中に、「アラスカは若いうちに来たらよくない」って書かれているんです。なぜかというと、これ以上のものが地球上にはないから、これを早いうちに知っちゃうと何にも感動できなくなるらしくて。そういう意味でも、星野さんがどういう景色を見てきたのか、私も見たいんです。

――最後にティーンの読者に向けてメッセージをお願いします。

川添 高校生になると「将来はどうするんだ」と言われ始めますし、周りの人たちを見ると、みんなちゃんとしているように見えてくる。私もそういうプレッシャーから不安になることがありました。それぞれいろんな状況があるし、もう社会に出ている方もいらっしゃると思います。私からアドバイスみたいなことは何もできないんですけど、当時、自分に言い聞かせていたことは、どうなるかなんてわからないし、明日死ぬかもしれない。せっかく生まれた人生だから先入観や固定観念にとらわれず一回受け入れて楽しんでみること。もしそれが合わなくても全然いいし、何者かになることもいつだってできる。だから絶対諦めないで、とにかく人生を楽しんでいこうという気持ちです。私も今からもっともっといろいろな人生を歩むことを楽しみにしているので、どこかで皆さんともお会いしたいです。

Information

映画『ミュジコフィリア』
11月19日(金)TOHO シネマズ日比谷他全国ロードショー

井之脇海 松本穂香
川添野愛 阿部進之介
織田カノン 多井一晃 喜多乃愛 中島ボイル 佐藤都輝子
石丸幹二
辰巳琢郎 茂山逸平 大塚まさじ 杉本彩 / きたやまおさむ 栗塚旭
濱田マリ 神野美鈴
山崎育三郎

原作:さそうあきら「ミュジコフィリア」(双葉社刊)
主題歌:松本穂香「小石のうた」(詩・曲:日食なつこ)
主題ピアノ曲:古後公隆「あかつき」「いのち」
脚本・プロデューサー:大野裕之
監督:谷口正晃

京都の芸術大学に入学した朔は、ひょんなことで「現代音楽研究会」に引き込まれる。クセの強い教授や学生たちが集まるそのサークルには、朔が憧れてきた幼なじみでバイオリニストの小夜、そして著名な作曲家の息子で、自身も天才作曲家と期待される大成がいた。実は、大成は朔の異母兄で、朔は子供の頃から色や形を「音」として感じる才能を持ちながらも父と兄へのコンプレックスから音楽を憎んできたのだ。だが天性の歌声を持ち、朔に想いを寄せるピアノ科の凪が現われ、朔の秘めた才能が開花し始める――。

©2021 musicophilia film partners ©さそうあきら/双葉社

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川添野愛

女優

1995年2月5日生まれ。東京都出身。幼少期より杉並児童合唱団に12年間在籍。2015年多摩美術大学在学中に、WOWOW「贖罪の奏鳴曲」(青山真治監督)で女優デビュー。主な出演作に、映画「ジョニーの休日」(新谷寛行監督)、日本・ミャンマー合作映画「My Country My Home」(チー・ピュー・シン監督)、「パパはわるものチャンピオン」(藤村亨平監督)、「パーフェクトワールド 君といる奇跡」(柴山健次監督)、「蒲田前奏曲」 第2番「呑川ラプソディ」(監督: 穐山茉由)ドラマ「恋愛時代」(YTV・NTV)、「パフェちっく!」(FOD)、「限界団地」(THK・CX)、「his~恋するつもりなんてなかったのに」(メ―テレ)舞台「セールスマンの死」(演出:長塚圭史)、「春のめざめ」(演出:白井晃)、 舞台「タイトル、拒絶」(演出:山田佳奈)2019年より始動した東京芸術劇場芸術監督の野田秀樹氏が次世代演劇人を育成するプロジェクト「東京演劇道場」に参加。現在、第一生命保険「幸せの道~行ってきます」篇 と丸源ラーメン「感動肉そば!」篇のCMに出演中。

Photographer:Atsushi Furuya,Interviewer:Tetsu Takahashi, Stylist:Hiroya Tsuchida, Hair&Make:Maho Suzuki
撮影協力: DADA integrate株式会社