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色褪せない思い出は世代を問わず共通している

――映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』の原作は作家・燃え殻氏のデビュー作で、半自伝的小説です。燃え殻氏は1973年生まれと、伊藤さんよりも二回り近く上の世代ですが、原作をどう読みましたか?

伊藤 初々しいウブな感じだったり、色褪せない思い出みたいなものは、世代を問わず共通しているんだろうなと思いました。もちろん時代は違いますが、感覚としては共通するものが多かったです。

――映画で描かれている90年代のカルチャーに馴染みはありましたか?

伊藤 カルチャーとしては全然知らなかったです。ただ巡り巡って、今のオシャレが昔流行ったものだったりもするので、今見ても80年代や90年代は可愛いなと感じるものも多いですし、特に渋谷系や原宿系は奇抜に見えてそれだけじゃない、普遍的な面白さがあります。

――渋谷と原宿が主な舞台ですが、当時の風景や空気が見事に蘇っています。

伊藤 私も幼稚園の頃から原宿のダンススクールに通っていたので、小さい頃から見慣れた街並みでした。大勢の人が見てきた景色が、同じ場所でも違うというのがすごくいいなと思いましたし、歴史を感じました。

――伊藤さんが演じた加藤かおりは、映画や音楽をこよなく愛し、ファッションは時代に流されず自分の世界観をしっかりと持った女性です。伊藤さん自身と共通する部分はありますか?

伊藤 ものや人から受けた影響に対して、素直に感動して動くところは、意外と共通しているのかなと思います。

――主人公とは文通で知り合います。文通は初々しくて、かなり気恥ずかしい内容ですが、似たような経験はありますか?

伊藤 ノートに相合傘を書いてたなとか、ちょっと恥ずかしい過去はあります(笑)。

――かおりは平凡な日々を過ごしながらも、「普通」であることに嫌悪感を示します。

伊藤 私も若い頃は、人と被るのが嫌だというのはありました。特に高校生の頃は、見たことないような洋服屋で服を買ったりしていました。ただ今は普通っていいなって思うんです。普通が嫌という感覚は、若い頃に特有の「ないものねだり」なんだろうなと。

役を探り合うディベートの時間は貴重だった

――本作が映画監督デビューとなる森義仁監督の演出はいかがでしたか?

伊藤 もともとCMやMVを撮られているので、視覚としてのアプローチがすごく得意な方です。見せ方や画がすごく綺麗で、そういう部分での個性を活かしていただけるように、登場人物の感情に深く触れるところについては、演者側ができる限りアイデアを出したり、意見を言ったり、寄り添わせていただきました。

――『ボクたちはみんな大人になれなかった』の映像美も素晴らしいですが、撮影中もそれを感じましたか?

伊藤 撮影監督の吉田明義さんも含めて、みんながこだわりを持って提案し合って撮影を進めていたんですが、画に対するこだわりを強く感じました。以前出演したドラマ「恋のツキ」も森監督と吉田さんのタッグだったんですけど、今回も二人はあうんの呼吸でしたね。

――伊藤さんは事前にリリースされた本作のコメントで、加藤かおりを演じるにあたって「今までで一番悩み、葛藤と共に生きた役でした」と仰っていました。

伊藤 もともとかおりを追求する小説ではなくて、主人公・佐藤誠が掴みきれなかった女性ということが、そのまま描かれているから、答えやヒントがなかったんです。一見するとミステリアスな存在ですけど、誰かの視点を通したかおりがミステリアスなのであって、かおり自身がミステリアスという訳じゃないんです。だから、かおりそのものになりきる忠実さはいらないなと思いました。撮影前には、かおりらしいしぐさ、話し方、声のトーン、しゃべるスピードなどを、みんなで探り合うディベートの時間もありました。そういうことに時間をかけられるなんて、なかなかない機会です。みんなでかおりを作っていただけたので、とてもありがたい時間でした。

――佐藤誠を演じた森山未來さんの印象はいかがでしたか?

伊藤 すごく深いところまでいろいろ考えている方でした。そういう未來さんのこだわりは、撮っている当時は気づかなかったのですが、撮影が終わって、こうした取材などで話す機会があったときに初めて、「こういう理由で、あんな行動に繋がったんだ」と腑に落ちることが多々ありました。現場で私の反応を見ながら、いろいろチャレンジや実験をされていたんだなと思います。

――完成した映画を見てどう感じましたか?

伊藤 燃え殻さんと同世代の方はもちろん、私のような下の世代にも刺さる、幅が広くて面白い作品だなとシンプルに思いました。主人公の心情、描かれた時代に寄り添い、大切に描きながら、視覚としても美しくて気持ちいいものを提供できている魅力的な作品です。

追い詰められないと動かないタイプ

――佐藤誠は、なかなかやりたいことを見つけられず、本意ではなかった仕事に就いてもがき続けます。伊藤さんは、この世界で生きていこうという気持ちが固まったのはいつ頃ですか?

伊藤 本当にみんなと一緒で、18歳で進路を決めなければいけなくなった時期です。もともと追い詰められないと動かないタイプで、順序立てたり計算したりすることが苦手なので、「はい!もう高校卒業だよ!どっちにするの?」ってならないと動けなくて。ただ、そのタイミングで、映画『悪の教典』(12)というバジェットの大きい作品に初めて出て、完成した作品を、大好きな家族と地元の大きなスクリーンで見られたのが大きかったです。自分の芝居はどうであれ、エンドロールに自分の名前を見つけたときが、気持ちが固まった瞬間かもしれません。

――その経験がなかったら、決断がもう少し先になっていた可能性も?

伊藤 全然あると思います。なんなら辞めていたかもしれません。

――仕事に恵まれない時期でも、モチベーションを保つことができたのはなぜですか?

伊藤 強がりでもなんでもなく執着がないんですよ。先のことは全部後回しで考えるんです。ある意味、私の武器だと思っているんですけど、「この仕事しか私には無理だな」って思うことはあっても、心から「これしかない」とは思ってなくて。高校時代は、この仕事を辞めたら保健室の先生になりたいなと思って、どういう大学に行けばなれるのか調べました。まあ調べるだけで勉強はしないんですが(笑)。特に私は作品に影響されやすいところがあって、ダンスを扱う作品に出たら、ダンサーに興味を持つという風にコロコロ変わっていたんです。逆に「これしかないんだ!」と決めつけなかったことが、モチベーションに繋がったかもしれません。

――最後に、進路を検討しているティーンの読者にメッセージをお願いします。

伊藤 最近インスタのDMで、「お芝居をしてみたいけれど、馬鹿にされるんじゃないか、自分なんかが目指していいのか」って聞かれることが多いです。でも、この仕事だけじゃなくて、一歩踏み出すときって絶対みんな「できるかな」って不安を感じたり最悪な結末を想像したりすると思います。そういうときに無知って、すごく怖いことだなと思っています。知らないと何も言えないし、知っていれば、それだけで武器になります。私のように、まずは調べるだけでもいいし、片足までいかなくても指先でも突っ込んでみることが大事だと思います。決断するのは焦らず、まずはやってみる。もちろん、そこで向いてなかったらやめていいんです。なるべく人に迷惑はかけないほうがいいと思うけど、迷惑なんて知らない間に絶対かけてるから、そこは気にしなくていい!まずはできる限り納得のいく道を探してみることが、最終的にたどり着けるかは分からないにしても、楽しみな結果に繋がるのかなと思います。

――たとえ結果に繋がらなくても、その過程が後になって楽しかったなと思うこともありますしね。

伊藤 高校時代は職業は?大学は?って、いろいろなことを難しく考えがちなんですよね。あと私は学生時代、「好きなことないの?」って聞かれるのが嫌いだったんですよ。「ねーよ」って(笑)。でも好きなことって、ちょっとした趣味とか、そういえばいつもこれを見ているなとか、意外なところに転がっていると思います。それが単純に食べることだっていい。何だって将来広がるから!ちょっとした些細なことを拾ってみたり、関心を持ったりすることも大事なのかなって思います。

Information

『ボクたちはみんな大人になれなかった』
2021年11月5日(金)より、シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー& Netflix全世界配信開始!

森山未來 伊藤沙莉
東出昌大 SUMIRE 篠原篤
平岳大 片山萌美 高嶋政伸
ラサール石井・大島優子/萩原聖人

原作:燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫刊)
監督:森義仁
脚本:高田亮
©2021 C&Iエンタテインメント

1995年、ボクは彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」。初めて出来た彼女の言葉に支えられがむしゃらに働いた日々。1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった――。志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボクにも、時間だけは等しく過ぎて行った。そして2020年。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。

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伊藤沙莉

女優

千葉県出身。2020年、テレビアニメ「映像研には手を出すな!」やドラマ「これは経費で落ちません!」「ペンション・恋は桃色」などでの活躍を評価され、第57回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、東京ドラマアウォード2020で助演女優賞、2021年は映画『劇場』『ステップ』『タイトル、拒絶』『ホテルローヤル』『十二単衣を着た悪魔』などにより第63回ブルーリボン賞助演女優賞、そして第45回エランドール賞新人賞の栄誉に輝いた。近年の出演作にTVドラマ「全裸監督」(19、21)、「いいね!光源氏くん」(20、21)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21/ナレーション)、「モモウメ」(21)、舞台「首切り王子と愚かな女」(21)など。6月に初のフォトエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』を刊行。待機作に『ちょっと思い出しただけ』や来年1月よりオンエアの「ミステリという勿れ」などがある。

Photographer:Yuta Kono,Interviewer:Takahiro Iguchi, Stylist:Akane Yoshida, Hair&Make:aiko
<衣装協力>
グラフィックTシャツ、アシメショートスカート:アンスリード/アンスリード青山店 TEL.03-3409-5503
中に着たトップス(¥31,900)AKIKOAOKI/アキコアオキ TEL.03-5829-6188
イヤーカフス(¥6,600):Jouete/ジュエッテ TEL.0120-10-6616
スニーカー(¥13,200):プラス ダイアナ(ダイアナ 原宿店)  TEL.03-3478-4001
※全て税込価格