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ジャズピアニストのビル・エヴァンスにインスパイアされて書いた「debbie」

――にしなさんの最新楽曲「debbie」は映画『ずっと独身でいるつもり?』の主題歌ですが、映画はご覧になりましたか?

にしな 観させていただきました。原作のコミックも読ませていただき、登場する女性たちに共感する部分もありましたし、最終的にはそれぞれが、それぞれの意志を持って道を選んでいく映画で、背中を押してもらえると感じました。「debbie」の制作中に主題歌のお話をいただいたのですが、「もしかしたらこの映画に合う楽曲になるかもしれない」というような流れで、主題歌に決まりました。

――映画ありきではなく、曲が先にあったんですね。

にしな 曲を書いたきっかけは、コロナ禍で制作がうまくいかなくて苦しいなと感じていたときに、ジャズピアニストのビル・エヴァンスのアルバム『Waltz for Debby』(1961年作)を聴いたことです。どんな人がこの曲を作ったんだろうとビル・エヴァンスについて調べたら、制作に苦しみながら、姪っ子に向けて「Waltz for Debby」を書いたと知りました。そこでビル・エヴァンスと自分を重ね合わせて、制作する中での孤独や難しさ、その中でも「自分の中にあるピュアさを大切にしたい」という感情を描いたのが「debbie」です。

――ビル・エヴァンスにシンパシーを抱いたということでしょうか?

にしな 100%理解できる訳ではないですが、私も曲を作る身として、産みの苦しみが繋がる部分はあると思って、ビル・エヴァンスの曲をなぞらえるように自分自身を描きました。

――サウンド面ではどんなことを意識しましたか?

にしな ジャズピアニストの方からインスパイアされた曲だったので、ピアノの繊細さと力強さのような部分を大切にして作りました。ギターで作曲をしたんですが、制作段階でピアノが合うだろうなと思いました。

――「debbie」のように他のアーティストにインスパイアされて曲を書くことは以前からあったのでしょうか?

にしな 独特な雰囲気を持っている楽曲を参考にして制作することはあります。大好きな曲を基にして、こういう曲を作りたいみたいなこともありますね。

――歌詞はテーマを決めてから書くんですか?

にしな 楽曲にもよりますが、「この言葉を言いたい」とフレーズから作るときもありますし、「これを表現したい」とテーマを決めて書くこともあります。逆にメロから作って、メロに合う母音を拾っていくこともあります。ただメロから作ると、作詞に時間がかかってしまうパターンが多いです。音楽面での気持ち良さを取るのか、言いたいことを優先するのか、みたいな部分で迷ってしまうんです。煮詰まったときは、他の人に聴いてもらって意見を聞きますが、聞くだけ聞いて、最終的に取り入れないパターンも多いかもしれません(笑)。

――にしなさんの歌詞は、70~80年代の日本のシンガーソングライターを彷彿とさせるようなポエジーを感じさせます。

にしな その年代の楽曲も好きですし、もちろん同世代の方が作る楽曲も好きで、歌詞も意識して見ますね。

――歌詞がすごいと思うミュージシャンは誰ですか?

にしな 椎名林檎さんやRADWIMPSの野田洋次郎さんは自分の色を持っている方々だなと思いますが、影響を受け過ぎてはいけないという気持ちもあります。

高校時代に通った音楽養成講座で音楽活動がスタート

――音楽を始めたきっかけについて教えてください。

にしな 高校2年生のとき、レコード会社が主催する無料の音楽養成講座に3カ月という短期間でしたが通いました。それが音楽を始めたきっかけです。その前から音楽はやりたかったけど、学校に軽音部もなくて、始めるきっかけを掴めずにいました。

――もともと人前で歌うのは好きだったんですか?

にしな 小さい頃から歌う人になりたいという気持ちはあったんですが、恥ずかしくて人前で披露することはできなかったです。前に出るのが苦手なタイプで、歌うのは友達とカラオケに行ったときぐらいでした。小学校の卒業文集も、「歌手になりたい」って書けなくて、「フォトグラファーになりたい」って書いていました(笑)。音楽養成講座に通っていたことも、学校では誰にも言ってなかったです。

――音楽を始めるまで、どんなアーティストを聴いていましたか?

にしな 小学生の頃は、なぜかバンドの曲を聴くと心がザワザワするので聴けなかったんです。中学生になってから、どんな音楽でも聴けるようになって、バンドが流行っていたので、クリープハイプさんやRADWIMPSさんを聴いていました。ハマったバンドを掘っていくうちに、カバーしている曲のアーティストも聴いて、みたいな感じで幅が広がっていきました。高校生になってからも流行りの曲を聴く感じで、ハナレグミさんにもハマりました。

――音楽養成講座では、実際にオリジナル曲も制作されたんですか?

にしな 講座の最後にオムニバスアルバムを作りましょうという課題があって、そのときに初めて曲を作りました。

――講座に行って良かったことは何でしょうか?

にしな 「歌手になりたい」って周りに言えなかった私にとって、同世代の子がやりたいことに向かって真っすぐ進んでいる姿が刺激になりました。それで「私も音楽をやっていいんだ」という感情を得ることができました。

――講座が終わった後は、どういう音楽活動をしていたのでしょうか?

にしな オムニバスアルバムを作った後に卒業ライブがあって、初めてライブハウスに出ました。それで卒業後も自分でライブをしてみたいなと思って、そのライブハウスにメールさせていただきました。

――行動的になったんですね。

にしな そうなんです。急にポン!ってなるタイプで(笑)。その後は他のライブハウスにも連絡を取って、ライブをしての繰り返しでした。一人での弾き語りだったんですけど、高校3年生のときは、そんな感じで音楽活動を行っていました。

――当時、歌と曲作りでは、どちらに比重を置いていましたか?

にしな 歌いたい気持ちが強かったです。音楽活動を始めてから、曲を書くことが自分の表現に繋がっていって、曲作りの大切さも徐々に強まっていきました。

――自分の歌声にオリジナリティーがあると感じていましたか?

にしな どうだろう……。歌い始めた頃は、すごく扱いにくい声だなと思っていました。まだ喉も成長していなかった上に、緊張もあって、ステージに立っても細くて途切れそうな声しか出なくて。どうしたら豊かな声が出せるのかを試行錯誤していました。徐々に扱いにくさはなくなっていったんですけど、もっと気持ちよく歌うにはどうすればいいのかという探求心は今もあります。

SNSの発信でデビューのチャンスを掴む

――高校時代は進路をどのように考えていましたか?

にしな ミュージシャンになりたい気持ちはあったんですけど、すごく現実主義者なところがあって。何の保証もない状況で、始めたばかりの音楽でやっていけるとは思えなかったです。音楽に力を入れながら学べるところがいいなという基準で、音楽やメディアなど、いろんなジャンルを学べる学部がある大学に進学しました。

――大学進学後も音楽中心の生活でしたか?

にしな そうですね。ライブをして、曲を作って。1年半ぐらいバンド活動もしていました。バンドは男女のツインボーカルで、私も曲を作るし、もう一人のボーカルの男の子も曲を作って、一緒に歌って、みたいな感じで。弾き語りとは別物だったので面白かったです。バンドを続けたい気持ちもあったんですけど、留学したメンバーもいましたし、就職活動が近づいてくる中で、熱量を同じところまで高めるのは難しくて。

――デビューのきっかけは何だったのでしょうか?

にしな 音楽を初めてすぐにTwitterを始めて、写真や動画をアップしていました。大学生になったと同時ぐらいにYouTubeも開設して、自分を音楽を発信していく中で、いろいろな方に知ってもらえるようになりました。そんな中、Twitterを通じて今のマネージャーさんから連絡をもらって、大学在学中にデビューすることが決まりました。

――未知の世界に踏み出す不安はありましたか?

にしな 不安がなかったと言ったら嘘になります。それは今もそうですね。ただ不安はあったけど、迷ってはいなかったですし、特に誰かに相談することもなく自分で決めました。

――大学在学中にデビューしたいという気持ちはありましたか?

にしな 在学中にデビューが決まっていなかったら音楽を続けてなかったかもしれないです。大学卒業後にバイトをしながら音楽を続けられるようなタイプではないので、おそらく普通に就職して、音楽は趣味にしていたかもしれません。メディアに興味があったので、そういう仕事をしたいという気持ちもありました。

――最後に進路を検討しているティーン読者にメッセージをお願いします。

にしな 目標を持って何かを始めるときって、最初から上手くいくことは少ないと思います。周りの人が応援してくれるかも分からないし、もしかしたら賛同してくれない人もいっぱいいるかもしれない。その中で自分を信じることは難しいけど、でも自分の気持ちを大切にして、自分自身を最後まで信じ抜いてほしい。最初に思った形と結果は一致しなくてもいいので、前向きに進めば、どんどん道は拓けていくんじゃないかと思います。

Information

映画『ずっと独身でいるつもり?』主題歌
「debbie」
2021年11月17日デジタルリリース

公式サイト

にしな

ミュージシャン

新時代、天性の歌声と共に現れた新星。やさしくも儚く、中毒性のある声。どこか懐かしく、微睡む様に心地よいメロディーライン。無邪気にはしゃぎながら、繊細に紡がれる言葉のセンス。穏やかでありながら、内に潜んだ狂気を感じさせる彼女の音楽は、聴く人々を徹底的に魅了する。Spotifyがその年に注目する次世代アーティスト応援プログラム「RADAR:Early Noise 2021」に選出。ゆっくりとマイペースにリスナーを虜にしてきた彼女の声と音楽が、静かに、そして、より積極的に世の中へと出会いを求めに動き出す。2021年最重要ニューカマー、「儚さと狂気」を内包する才能が、ここに現る。

Photographer:Yuta Kono,Interviewer:Takahiro Iguchi, Stylist:Koromo Ishigaya, Hair&Make:Eriko Yamaguchi
衣装協力
ワンピース¥23,100-/NEPENTHES(ネペンテス ウーマン トウキョウ)
パンツ¥15,180-/rose shimokitazawa(ローズ シモキタザワ)
その他/スタイリスト私物
金額は税込
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