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2人が揃った書店イベントは「ピカルの定理」のハイタッチ会以来

多彩な才能を発揮し続けているお笑いコンビ・ハライチの岩井勇気が、9月28日にエッセイ集の第二弾『どうやら僕の日常生活はまちがっている』を発売。前作『僕の人生には事件が起きない』以来2年ぶりとなる新刊。

11月10日、本書の大ヒットを記念して、ピース・又吉直樹を招いて東京・八重洲ブックセンター本店でトークショーが行われた。

一緒に書店を訪れるのは、2013年までフジテレビ系で放送されたバラエティー番組「ピカルの定理」のハイタッチ会以来、7年ぶりだと振り返る。

岩井 あの頃から、テレビ局でも又吉さんは連載中のエッセイをケータイで書いてましたよね。

又吉 うん。岩井はまだ書いてなかった?

岩井 僕が書くようになったのは4年くらい前からです。

又吉 岩井の1冊目に入っているエッセイを連載中に読んで、メイク室で会ったときに「面白かった」って話をしたのは覚えてる?

岩井 覚えてます。

又吉 今回の本は、同じ連載の続編だよね。岩井らしいというか、岩井そのものというか、嫌なことも言うし、優しいところもあるし、ほんま岩井っぽい。読んでて岩井を好きになっていく仕組みになってる感じがした。

岩井 1冊目を出したときに又吉さんに報告したら、「とりあえず5万部売るんやで」って言ってくれたじゃないですか。10万売れました。

又吉 思ってたよりだいぶ売ってますね。

岩井 いえいえ、又吉さんには及びません。

又吉の『劇場』を読んで「むちゃくちゃムカつきました」

岩井 僕、今までライトノベル以外は全然活字を読んでなかったんです。小説というものに初めて触れたのは乙一さんの短編集『ZOO』なんですけど、これは「ピカルの定理」をやってるときに、又吉さんに「何か面白い小説ありますか?」って聞いたら、「岩井は『ZOO』が合うと思う」って言われて読んだんです。

又吉 猟奇的な世界が岩井に合うと思ったの。面白かったやろ?

岩井 面白かったです。それっきり読んでなかったんですけど、今回このイベントを一緒にやらせてもらうにあたって、又吉さんの本は絶対に読まなきゃいけないと思って。

又吉 すごく無理してくれてるね(笑)。

岩井 『劇場』という小説の文庫本を読ませてもらいました。めちゃくちゃ面白かったです。

又吉 ありがとう。「全然面白くないっすねー」とか言いかねへんからな。

岩井 いや面白かったですよ(笑)。「又吉さんってこういうの書くんだ、面白いな」と思いながら読んでいた部分もあります。

又吉 僕のことを知ってると、主人公と僕を比べたりできるからね。

岩井 感動っていうよりは、むちゃくちゃムカつきましたね。

又吉 そういう感想はけっこう頂きますね。

岩井 主人公がイラつく人間だなと思いながら読んで、最後、感動方向に行くじゃないですか。あそこに腹立って(笑)。

又吉 なるほどね。そういうふうに読んでくれる人が多いかもしれないですね。美しい感情だけを書くもんじゃないもんね、小説は。

岩井 それで、僕の文章は又吉さんと比べて、だいぶ解像度が低いんだとも思いました。

又吉 そんなことないよ。(今回の新刊は)細かいことにまで目が行ってるし、そこまで割り切れるんやっていう面白さもあったし、あと、すごい似てるところもあった。

岩井 そうですか?

又吉 「地球最後の日に食べたいもの」は、まったく思考の流れが一緒やった。一番好きなものはカレーやからカレーかな、でも死ぬときに胃の中のカレーがあるのは嫌やなとか、あと店閉まってるよなって考えて。

岩井 そうなんですよ(笑)。

又吉 最終的に果物の梨が一番いいんじゃないかなっていうところに俺はたどり着いた。

岩井 なるほどね。結局、地球最後の日に何を食べたいって、何が一番好きかっていう話になっちゃうじゃないですか。

又吉 なるよな。あと、地球最後の日に何食べたい?っていうシンプルな問いだけがある地球最後の日ってないやん?誰と一緒にいたい?とかあるやん。で、一緒にいる人が、俺がそんなに好きじゃないステーキを食べたいって言いだしたら、俺は妥協しながら死ぬことになる。

岩井 『劇場』にも梨を食べるシーンがありますよね。僕、すごく共感して。結局、なんの梨が一番うまいかじゃなくて、「人が剥いてくれた梨」が一番うまいなって。

又吉 そうやねん。梨は剥くのめっちゃ面倒くさいからね。

岩井 剥かれた状態が梨ですからね。で、又吉さんの文章は本当に解像度が高いって思ったんですよ。

又吉 今回の岩井の本に「自意識過剰な考え方は嫌だ」っていう文章があったので、なんか今日怒られるのかな俺って思って。

岩井 ハハハハハ。

又吉 自意識のかたまりみたいに思われてるから。

岩井 そんなことないです(笑)。又吉さんが前に言ってくれたのは、「小説書くならエッセイ本を2冊出してからにしぃ」。あれはどういう意味だったんですか?

又吉 エッセイは締め切りもあって、何書こうって思うやん?トークライブのときに何喋ろうとか思ったりするのと一緒で。何を書こうかと考えて、あのことを書こうと振り返って、こんなことあった、あんなことあったって気づく。それを書いていくのが日常化していくと、だんだん普通に生活してても、今までよりも細かいことに気づいていく感じがあって、それが小説を書くときに役立つんじゃないかなと思ったのかな。

岩井 今回、小説を最後に1本入れたんですけど。

又吉 すごい面白かった。

岩井 小説ですって謳ってるんですけど、小説ですか?

又吉 うん。(小説とエッセイの)線引きは難しいけどね。主人公の設定が自分でなかったりすると小説やなってわかるけど、主人公が自分と年齢も環境も近かったりすると、エッセイと小説の垣根みたいなものが見えにくくなったりする。

小説とエッセイの違いは、コントと漫才の違いに近い

又吉 (相方と)2人でするトークと漫才の違いって何やと思う?そこにエッセイと小説の違いを理解するヒントがありそうな気がする。

岩井 うーん。形式的には、明確な違いはないですね。

又吉 じゃあ爆笑トークライブと漫才の違いは?

岩井 爆笑トークライブはつまらなそう(笑)。

又吉 漫才はゴールが決まってるところがトークと違うよね。あと、エッセイはすごい広いんやろな。エッセイの中に笑い話があってもいいし、小説の要素もあってもいいし。

岩井 そのわりに何も賞はないって言われて。

又吉 エッセイ?あると思うよ。

岩井 校内マラソン1位くらいの賞しかないって聞いたんですけど、(小説とエッセイの)労力がそんなに変わらないとしたら、この差はなんなんだろうって思ったりしましたね。

又吉 たしかにね。エッセイ書くのもすごい時間かかるし、面白いエッセイって、岩井の今回の本もそうやし、いっぱいありますからね。

岩井 又吉さんはエッセイと小説、書くときの切り替えはどうしてるんですか?

又吉 エッセイは自分が感じたこと見たことを書くんだけど、小説のほうは書き始めても入っていけなくて書けないっていうことはある。今、こいつ(主人公)の気持ちに添えないないなぁっていうときがある。僕の書いた小説の主人公って自分の分身の部分もあるけど、全然違うところもあるから、そいつを理解していないと話す言葉が出てこない。

岩井 演技とも近いんですかね。そいつを演じるにあたっても、自分の中にないものは出せないじゃないですか。そう考えると、小説とエッセイの違いは、コントと漫才の違いに近いのかもしれないですね。漫才は完全に「自分」がやってるんですよ。コントはけっこう苦手なんです。

又吉 ライブのコントで、設定だけ決めてやろうってなって、岩井がすごい「優しい奴」の役を与えられたら、次どんな優しいこと言おうかなっていうよりは、自然に優しい言葉が出てきて優しい奴になるっていう感覚があるやろ?

岩井 うん、そうですね。僕は(役に)入り込む能力が低いのかもしれないですけど。

又吉 バリアがあるのかな。俺は岩井だっていう。

岩井 あと、すごく照れがありますね。ドラマとかちょこちょこ出たんですけど、その人になりきるというか、その人が言いそうなことを頭で考えて喋ってるって感じですね。で、『劇場』を読んでたとき、あ、又吉さんだなって感じる部分がけっこうありました。

又吉 あの変な奴として岩井は俺を見てたんや?

岩井 全然見てます。こいつ意地悪っていうか傲慢だなって(笑)。

又吉 俺、傲慢やと思われてたんか(笑)。まあ、そういう部分もあるやろうしね。

岩井 小説書くときも、(演じるのと同じく)自分にないものは人物に投影できないかもしれないですね。

文筆との距離を岩井にとらえ直してほしい

岩井 又吉さんのおかげで、短かったですけど濃い時間を過ごすことができました。

又吉 岩井が僕のことを傲慢な奴と思ってることが明らかになっただけでも有意義でした。もっと優しくしかほうがええんかな。

岩井 いやいや、俺にはすごく優しいんですよ。そんなに僕がフィーチャーされてなかったときから、すごく声をかけてくれたし。ほんとにありがとうございました。

又吉 本当に(新刊が)面白かったので、また岩井とどこかで話したいですし、もっと書いてもらいたいですね。これ、笑えるエッセイになってるやん?お笑いの10種競技の中にあってもいいぐらいだよね。

岩井 エッセイがですか?

又吉 うん。一発ギャグのほうが不思議じゃない?漫才あってコントあって大喜利とかいろいろある中で、一発ギャグって、すっごい競技じゃない?

岩井 自分らは5分から15分くらいの漫才をずっと作ってるんですけど、エッセイを書くのはすごい時間がかかりますよね。で、一番短いのが一発ギャグ。

又吉 一発でキメなアカンから取り返しがつかへん。あの恐ろしさたるや。で、僕らはエッセイがお笑い10種競技に入ってない世界に生まれた。もし含まれてたら、芸人がエッセイを書くのは普通なんやっていうのも想像できるんやけどな。トークとエッセイの距離ってかなり近いから。

岩井 はい(納得)。

又吉 岩井は、これはお笑いじゃないからとエッセイと距離を取ろうとしてる。

岩井 たしかに。

又吉 俺は近づけようとしてるんや。文筆との距離を岩井にとらえ直してほしいな。このことについてめちゃくちゃ考えたことを、エッセイにしてください。

Information

『どうやら僕の日常生活はまちがっている』
好評発売中!

著者:岩井勇気
判型:四六変小(208ぺージ)
定価:1,375円(税込)
出版社:新潮社

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Reporter:Takehiko Sawaki