又吉の『劇場』を読んで「むちゃくちゃムカつきました」
岩井 僕、今までライトノベル以外は全然活字を読んでなかったんです。小説というものに初めて触れたのは乙一さんの短編集『ZOO』なんですけど、これは「ピカルの定理」をやってるときに、又吉さんに「何か面白い小説ありますか?」って聞いたら、「岩井は『ZOO』が合うと思う」って言われて読んだんです。
又吉 猟奇的な世界が岩井に合うと思ったの。面白かったやろ?
岩井 面白かったです。それっきり読んでなかったんですけど、今回このイベントを一緒にやらせてもらうにあたって、又吉さんの本は絶対に読まなきゃいけないと思って。
又吉 すごく無理してくれてるね(笑)。
岩井 『劇場』という小説の文庫本を読ませてもらいました。めちゃくちゃ面白かったです。
又吉 ありがとう。「全然面白くないっすねー」とか言いかねへんからな。
岩井 いや面白かったですよ(笑)。「又吉さんってこういうの書くんだ、面白いな」と思いながら読んでいた部分もあります。
又吉 僕のことを知ってると、主人公と僕を比べたりできるからね。
岩井 感動っていうよりは、むちゃくちゃムカつきましたね。
又吉 そういう感想はけっこう頂きますね。
岩井 主人公がイラつく人間だなと思いながら読んで、最後、感動方向に行くじゃないですか。あそこに腹立って(笑)。
又吉 なるほどね。そういうふうに読んでくれる人が多いかもしれないですね。美しい感情だけを書くもんじゃないもんね、小説は。
岩井 それで、僕の文章は又吉さんと比べて、だいぶ解像度が低いんだとも思いました。
又吉 そんなことないよ。(今回の新刊は)細かいことにまで目が行ってるし、そこまで割り切れるんやっていう面白さもあったし、あと、すごい似てるところもあった。
岩井 そうですか?
又吉 「地球最後の日に食べたいもの」は、まったく思考の流れが一緒やった。一番好きなものはカレーやからカレーかな、でも死ぬときに胃の中のカレーがあるのは嫌やなとか、あと店閉まってるよなって考えて。
岩井 そうなんですよ(笑)。
又吉 最終的に果物の梨が一番いいんじゃないかなっていうところに俺はたどり着いた。
岩井 なるほどね。結局、地球最後の日に何を食べたいって、何が一番好きかっていう話になっちゃうじゃないですか。
又吉 なるよな。あと、地球最後の日に何食べたい?っていうシンプルな問いだけがある地球最後の日ってないやん?誰と一緒にいたい?とかあるやん。で、一緒にいる人が、俺がそんなに好きじゃないステーキを食べたいって言いだしたら、俺は妥協しながら死ぬことになる。
岩井 『劇場』にも梨を食べるシーンがありますよね。僕、すごく共感して。結局、なんの梨が一番うまいかじゃなくて、「人が剥いてくれた梨」が一番うまいなって。
又吉 そうやねん。梨は剥くのめっちゃ面倒くさいからね。
岩井 剥かれた状態が梨ですからね。で、又吉さんの文章は本当に解像度が高いって思ったんですよ。
又吉 今回の岩井の本に「自意識過剰な考え方は嫌だ」っていう文章があったので、なんか今日怒られるのかな俺って思って。
岩井 ハハハハハ。
又吉 自意識のかたまりみたいに思われてるから。
岩井 そんなことないです(笑)。又吉さんが前に言ってくれたのは、「小説書くならエッセイ本を2冊出してからにしぃ」。あれはどういう意味だったんですか?
又吉 エッセイは締め切りもあって、何書こうって思うやん?トークライブのときに何喋ろうとか思ったりするのと一緒で。何を書こうかと考えて、あのことを書こうと振り返って、こんなことあった、あんなことあったって気づく。それを書いていくのが日常化していくと、だんだん普通に生活してても、今までよりも細かいことに気づいていく感じがあって、それが小説を書くときに役立つんじゃないかなと思ったのかな。
岩井 今回、小説を最後に1本入れたんですけど。
又吉 すごい面白かった。
岩井 小説ですって謳ってるんですけど、小説ですか?
又吉 うん。(小説とエッセイの)線引きは難しいけどね。主人公の設定が自分でなかったりすると小説やなってわかるけど、主人公が自分と年齢も環境も近かったりすると、エッセイと小説の垣根みたいなものが見えにくくなったりする。