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仲村トオルが「万田監督の操り人形になりたい」と考えた理由

映画『愛のまなざしを』の公開を記念し、11月13日に東京・ユーロスペースで舞台挨拶が行われた。

『愛のまなざしを』は、強烈な自我を持つ女性を軸に、狂気ともいえる愛を描いてきた鬼才・万田邦敏監督が、カンヌ国際映画祭にてW受賞した『UNloved』(2001年)、比類なき傑作『接吻』(2008年)に続き、共同脚本・万田珠実と三度目のタッグを組み、人間の性とエゴをあぶり出した愛憎サスペンスだ。

この日は、本編上映後にキャストの仲村トオル、杉野希妃、斎藤工、中村ゆり、藤原大祐、万田邦敏監督が登壇した。

仲村がはじめに、「2年前に撮影された作品が、ようやく皆さんに観てもらえる日が来たことをとても嬉しく、感慨深く思っております」と挨拶。

斎藤は「生まれて初めてカメラの前に立ったのは、実は万田さんの作品で、幼少期なんですけれど、いろんな思いが詰まって、今ここに立たせていただいております」と喜びを見せた。

万田監督は「客席の皆さんとお会いできたことをとても嬉しく思っております。観ていたただいた、映っているものすべてを撮りたい、伝えたいと思って映画を作りました。皆さんが帰って、理解できないシーンもあるけど、あのシーンのあの台詞いいよねとか、トータルでいろいろ思い出すと面白かったなと思っていただければ嬉しいです」と気持ちを観客に伝えた。また先ほどの斎藤の話を受けて、「斎藤さん、こんな(手で腰の高さあたりを示し)ちっちゃかったんですよ」と、親戚のおじさんのような微笑みをこぼした。

この作品がデビュー作となる18歳の藤原は、スクリーンの姿が2年前ゆえに、成長した姿を客席に見せる格好となった。「初めてのオーディションで掴み取った役だったんですけど、あれから2年経ちまして、(身体が)大きくなったんじゃないかと思います」と、初々しい笑顔を浮かべた。

万田監督は、仲村を主役に起用した理由について、「『UNloved』のときに初めてお会いして、とてもカッコいい人だなと思って、その後『接吻』のほか、『ありがとう』(2006年)にもゲスト出演していただきました。そういう中で信頼関係も築けたかなと思っていて、映画を作る機会があれば絶対仲村さんには出ていただきたいと思ってました。それで今回、主役をお願いしました」とコメント。

このオファーを受けた仲村はすぐに快諾。「初めて『UNloved』に出演したとき、僕にとっては革命的な出来事だったんですけど、“表に現れるものこそが表現である”というか、自分の意思とか生理とか極力排除した結果、見たことのない世界にいる初めて見る自分というのがとても嬉しい経験でした。『接吻』も大好きな作品ですし、今回も何の迷いもなかったです」と、監督への厚い信頼を語る仲村は、「万田監督の操り人形になりたい」とまで発言した。

その真意について、「20代の頃は生意気で、演出家やディレクターの方に対して『俺は操り人形じゃねぇよ』という意識を持ってたと思うんですけど、自分の心と脳みそだけで身体を動かそうとしていると、できる範囲のことが限られているなという行き詰まりみたいなものを感じ始めて。そんなときに万田監督と出会うことができて、人に操られる。もしくは人に言われたとおりに自分の肉体を操ってみるということがとても新鮮でした。それまでの限界というか、壁みたいなものの外に出られたのかなという感じがあったので、そういう(操り人形になりたい)言い方をしています」と説明した。

熱烈に愛を乞う人・綾子を演じた杉野は、クランクアップ後も「綾子が抜けていなかった」と告白。「皆さん、共感できた方はいらっしゃるんでしょうか?」とおずおずと問いかけて観客を和ませ、「まず脚本を読んだときに、こんな言動の人がいるのかなって思いました。愛をストレートに伝える、言ってみれば子どもっぽいキャラクターだったので、なかなか理解や共感しにくかったんですけど、自分が決めつけるんじゃなく、自分の考えていることを手放して。それで監督の演出について行って、万田節に浸ったほうが綾子を演じる上では正しいのかなと思って演じたんですけど、なかなか綾子を愛せなくて、自分が演じた後も嫌だなという感じが抜けなかった。でも、この2年のコロナ禍を経て、綾子のあの切実さというか、何が何でも愛をもらいたい、認められたい、好きになってほしいという感情って、彼女にとっては生きる術だった、あれをしないと生きていけなかったということだったのかなと思って、この2年で少しずつ消化していったような気がします」と、個性の強いキャラクターと向き合った苦労を振り返った。

斎藤工が万田監督と出会ったのは小学2年生の頃

斎藤は万田監督との出会いを「先ほど両親に確認したら、小学2年生の頃だったそうです。あの体験も自分の血となり肉となり現在に至るのかなと思ってます」と語り、今回初めて本格的に俳優として対峙した体験を、「本人の感情の前に行動というものが監督の演出によって導かれるんです。日常の反対のようで、でも自分の日常に目を落とすと、思いもよらぬ行動に出ていたり、そういう人間の理性を越えた動物的な瞬間みたいなものが、行動によって生まれているなと現場で強く感じました。普段のリズムというか呼吸というか、自分の日常をくっつけて演じることをしてきたんですけど、まったく違う文脈の中で人間を描くという演出を感じた体験でした」と、仲村と同じく万田演出の魅力にも言及。

「僕はこの作品を理解するのにすごく時間がかかりました。でも、多くのエンターテイメントは消化にいいものが目立ち、何も引っかからない離乳食のような、わかりやすいものが増えているような気がします。時代の流れと言ったらそれまでなんですけど、僕は劇場でお客さんに引っかかる、消化できない、胃の中に腸の中に残る違和感みたいなものを持ち帰る帰り道が、一番の映画体験だと思います。この作品を試写で見た後、なぜか歩いて帰りたくなって、トボトボ歩いていても消化できないという豊かな時間を得ることができました」と、想いを熱く語った。

斎藤はまた、「僕はデビュー当時、トオルさんの幼少期を演じさせていただいたことがあったんです」と仲村との縁を話し始める。「その時は『UNloved』が公開して数年後で、そのタイミングで万田さんにお会いして、『俳優を始めました』と報告する機会があったんです。その後にトオルさんにお会いできて、僕はトオルさんに開口一番、万田さんのお名前を出したんです」と言う。

これを受けて仲村は「斎藤君と同一人物を演じていたわけですけど、同じシーンはまったくなくて、リハーサル室で一度だけすれ違ったとき斎藤君が、『万田監督がよろしく言ってました』。『万田組やってるの?』『いえ、違います』『じゃあ何で?』『父の親友なんです』『お父さん何やってるの?』って僕が聞いたら、斎藤君の出番なのでスタッフが呼びにきて打ち切られた。僕らの初めての会話がそれです(笑)」と述懐。後にこのモヤモヤが解消されて今日に至ります、と貴重なエピソードを披露してくれた。

中村は、 仲村が演じる貴志の6年前に死んだ妻を演じた役の難しさを、「旦那さんが見ている幻覚のようでもありますし、何をヒントにやればいいのかと思いましたけど、監督にプランがあったので、私は言うことを聞いて動きました。想像なんですけど、旦那さんが思っている彼女と本当の生前の彼女はまた違うんだろうなと感じました」と述べた。

さらに中村は、本作の仲村について、「綾子への触れ方も繊細さを感じましたし、今回初めてお会いした時に、『僕は共演する方のことをWikipediaで調べるんだ』と教えてくださって(笑)。私の出身地とかも把握してくださっていて、何て細やかな気遣いをされる方なんだろうと思いました。私もそれから真似して必ずWikipediaを見てから新しい方とお仕事をするようにしています」と裏話を明かしてくれた。

藤原は今日が初めての舞台挨拶体験。親子の役で共演した仲村の印象を聞かれると、「僕のことをWikipediaで調べても出てこなかったと思うんですけど」と会場を笑わせるトーク巧者ぶりを披露し、「本当にお父さんみたく話しかけてくださって、楽しくやらせていただきました」と感謝を述べた。

仲村は現場で藤原にサインをしてもらったそうで、その理由を聞かれると、彼が書いた人生初のサインなので「将来価値が出ると思って」と答え、会場は爆笑の渦。「価値が上がるようがんばります」と返した藤原も、仲村のサインをもらってクリアファイルに大切に保管していると話した。

最後に仲村が代表して、「本当にこんなに一人ひとりの方に『どうでしたか?』と聞きたくなる映画はめったにないです。まだ理解できていない方も多いのではと想像しますが、いつか文字にできたら、SNSをやってらっしゃる方は、僕らへの手紙を書くような感じで書いていただけると、検索してたどり着いて読ませていただこうと思います。今日はありがとうございました」と締めくくり、会場は盛大な拍手に包まれた。

Information

『愛のまなざしを』
渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、イオンシネマ他にて全国公開中!

出演:仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐
監督:万田邦敏
脚本:万田珠実 万田邦敏
配給:イオンエンターテイメント 朝日新聞社 和エンタテインメント
2020年/日本/日本語/102分/英題:Love Mooning/HD/カラー/Vista/5.1ch
©Love Mooning Film Partners

亡くなった妻に囚われ、夜ごと精神安定剤を服用する精神科医・貴志(仲村トオル)のもとに現れたのは、モラハラの恋人に連れられ患者としてやってきた綾子(杉野希妃)。恋人との関係に疲弊し、肉親の愛に飢えていた彼女は、貴志の寄り添った診察に救われたことで、彼に愛を求め始める。いっぽう妻(中村ゆり)の死に罪悪感をいだき、心を閉ざしてきた貴志は、綾子の救済者となることで、自らも救われ、その愛に溺れていく…。しかし、二人のはぐくむ愛は執着と嫉妬にまみれ始め、貴志の息子・祐樹(藤原大祐)や義父母との関係、そしてクリニックの診察にまで影響が及んでいく。そんな頃、義弟・茂(斎藤工)から綾子の過去について知らされ、さらに妻の秘密までも知ることとなり、貴志は激しく動揺するのだった。自身の人生がぶれぬよう、こらえてきた貴志のなかで大きく何かが崩れていく。失った愛をもう一度求めただけなのに、その渦の中には大きな魔物が存在し、やがて貴志の人生を乗っ取り始める。かたや綾子は、亡き妻にいまだ囚われる貴志にいらだち、二人の過去に激しい嫉妬をいだく。彼女は貴志と妻の愛を越え、極限の愛にたどりつくために、ある決断を下すのだった――。

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Reporter:Takehiko Sawaki