曲作りのスタンスはメジャーデビューしても変わっていない

――メジャーデビューされて、ご自身の中で何か変化はありましたか?

川崎 書く内容やコンセプト・歌詞の世界観はあまり変わってないですね。ただメジャーになってからは、アレンジャーさんが付いたり、良いスタジオでレコーディングさせていただけたりするので、クオリティでの変化は大きいと思います。あと「この曲だったら、もっとこういう風にしたら良くなるよね」というのを、僕一人ではなくて、みんなで一緒に考えられるのも良かったところです。でも個人的に大きな変化だと感じるのは、「魔法の絨毯」を聴いていただけるようになったことです。あの曲で僕は人生が変わりました。

――「魔法の絨毯」は2020年8月にTikTokでバズって大きな話題になりました。

川崎 「魔法の絨毯」は2016年に書いた曲で、2018年にリリースしました。その当時の感覚や思っていたことが、2020年になって皆さんに届いた。正解が分からないまま活動してきたんですけど、なんとなくの答え合わせみたいなものが、4年の時を経てできました。だからこそ、あの時の気持ちを変えてはいけないなと自分の中で再確認できたので、曲作りのスタンスに関してはメジャーデビューしても、あまり変わっていないです。

――『カレンダー』の前半は豪華なアレンジが施された曲もありますが、後半は前作のアルバム『I believe in you』に近い肌触りを感じました。構成で意識した部分はありますか?

川崎 構成に関しては、あまり意識はしていないですけど、曲ごとにアレンジを意識しました。たとえば「僕と僕」「あなたへ」に関しては、力強く歌いたいというのがあったので弾き語りにして。「カレンダー」「Young Song」に関しては、よりパワフルに、よりエネルギッシュになるように考えた結果、アレンジャーさんに付いてもらいました。曲順に関しては、世界観で曲順を選んでいる訳ではなくて、これまで僕がやってきたステージだったり、30分や1時間のライブを組み立てた時に、どういう順番で歌おうかなと考えた曲順という意識が一番強いかもしれないです。

――どの曲も最初の息遣いを大切にされている印象を受けました。

川崎 そうですね。バンドだと、いろんな音数があり、伝えるべきことがたくさんあって、何度も聴いて、より深くなっていくと思うんです。それに対してアコースティックギターの弾き語りは、ギターと歌詞とメロディーを一発で伝えることができる表現です。だからこそ言葉の前のブレス、音の置き方、息の使い方、語尾の伸ばし方や切り方など、全てにこだわります。このアルバムに関しては、全曲弾き語りで成り立つのを大前提でやっていて、アレンジをしていただいたことで、よりかっこよくなっている曲もあるんですけど、それがなくても一人で立ち上がれる曲というスタンスは一貫しています。

――年齢に応じた感情や考え方は曲に色濃く出るものですか?

川崎 色濃く出るどころか、それしかないと思いますね。僕は苦しい時代を長く過ごしてきて、いろんな人と出会って、いろんな経験もして、大変なことや腹が立ったこともあるし、裏切りなども経験している。そんなことを自分で振り返りながら、言葉を紡いでいった結果、この9曲になったという感じです。

――負の感情から生まれたものを曲にすることもありますか?

川崎 負の感情で書くこともなくはないですが、それをどうポジティブに変化させるかという書き方の方が強いです。たとえば「僕と僕」や「ヘイコウセカイ」はネガティブな部分や苦しかった時のことを歌っています。いろいろ選択してきた中で、諦めたことや辞めたこともあります。でも結局、選んだ道は自分次第なので、どっちの道を選んでも良いんです。選んだ後、自分がどう思うかということをプラスに変換して、前向きになれるように描いたのがこの2曲です。

――「魔法の絨毯」は10代からも絶大な支持を集めていますが、その世代に響くと想定していましたか?

川崎 驚きでした。10代の皆さんに聴いてもらいたいと思って書いてないですからね。もっと言うと、ある世代に向けてとか、日本中の皆さんに分かってほしいいう気持ちもないんです。一貫して僕は自分の大切な人のために書いていて、それは今でも変わりません。本当に大切な人、信じられる人に届くものがベストだと思っています。だからこそ「魔法の絨毯」がTikTokでいろいろな方に聴いていただけるようになったのは不思議な感覚でした。もちろん「魔法の絨毯」は以前からライブで歌っていましたけど、お客さんが2人ぐらいで誰にも聴いてもらえない中、ステージで本気で歌っていました。それが「なぜ今頃?」という気持ちと、自分がやってきたことは間違っていなかったという気持ち、いろんな感情が沸き起こりました。

――どうして若い世代に響いたと思いますか?

川崎 若い世代にヒットしたのは、なるべくしてなった訳じゃなくて、時代の流れや流行っている音楽もあるだろうし、社会がどういう音楽を求めているのかというのも影響していると思います。いろんなタイミングがカチッとハマったときに初めて「魔法の絨毯」が響いたという結果論だと思います。特に確信もないですし、あくまで僕の信じるものを生み出し続けるべきだと思うし、そこに一喜一憂はしていないですね。10代の皆さんに向けてバズるようにとか、フックのある言葉を使ってとかやり始めると上手くいかないでしょうし、そうすると自分がブレますから。