どんな役でもプレッシャーを感じて現場に行く

――『成れの果て』は3年ぶりの単独主演となる映画ですがプレッシャーはありましたか?

萩原 基本的にどんな役でもプレッシャーを感じていて、めちゃめちゃ怖いなと思いながら現場に行くので、今回もいつもと変わらず怖かったです。

――オファーを受けた時はかなり悩んだそうですね。

萩原 台本を読んだだけでは、主人公・小夜の気持ちについていけなくて、自分自身が理解できていないものを、カメラの前で演じることができるのかなという不安がありました。中途半端な気持ちじゃ絶対に挑めない作品だなと思いました。

――特に理解が難しいかったことはありますか?

萩原 ネタバレになるので詳しくはお話できないですが、憎しみを抱いていた相手への行動、その選択を選ばなければいけなかった気持ちが到底理解できませんでした。人を絶対に許さないという意味はどういうことなのかを、ずっと考えていました。ただ、小夜になってみないと、本当の小夜の気持ちなんて分からないなとも思ったんです。現場に入ってから、徐々に自分の中にあった隙間みたいなものが埋まっていった感じがあって、どんどん小夜の気持ちが見つかっていきました。

――過去に出演した作品でも、同じように演じる役の気持ちが理解できなくて悩んだことはありましたか?

萩原 ありましたが、たとえ自分とかけ離れていても、似たような人を見たことがあって、わりと身近に感じることが多かったです。でも小夜は、役として捉えにくいというか、同じ女性だからこそ中途半端には絶対にやれないと思いました。

――役作りではどんなことを意識されましたか?

萩原 小夜が強く訴えようとしている部分は出したいなと思っていて。小夜が実家を離れて別の場所で生活を始めて、過去を忘れようとしたのか、新しく生き直そうとしたのか、そのときの姿ってどんな感じなんだろうとか、すごく考えました。小夜は強い意志がありますが、どこかに弱さみたいなものもあって。それを表現するために、監督に相談しながら洋服やメイクなど細かい部分まで決めていきました。たとえば、小夜が地元を離れた時に、自分を繕う武器としての切り替えみたいなものが欲しくて、髪の毛を染めたいという話をさせていただきました。ただ、その髪色に強さがありすぎると、小夜を好きになる瞬間というか隙みたいなものが作れない。そうすると最後までお客さんがついてこられなくなる可能性もあるので、それは良くないと思いました。どこで、その隙を作ろうかということはめちゃくちゃ考えました。

――見た目から変えることも、役作りでは重要ということでしょうか?

萩原 女性にとってメイクや髪型によって、「こんなに気持ちが変わるんだ」というくらい変わるんです。そこまで大きな変化ではなくても、ちょっとしたこと、たとえば匂いが変わるだけでも全然変わります。それまでの役では、匂いまでこだわることはなかったんですけど、小夜が自分を守るためのものとして、今回は香水の匂いまで小夜をイメージしました。

――小夜が実家に帰省するシーンは、まがまがしい雰囲気を醸し出していて、周囲を戦慄させます。ところがストーリーが進むうちに、いろいろな謎が明らかになり、繊細な内面が明らかになっていきます。その心の移り変わりはどのように表現しようと思いましたか?

萩原 自分の中で、小夜を尖った子にしないというのは、現場に入る前から決めていました。普通に生きたい、普通に生きている、普通の女の子として演じたかったんです。すごく冷静なんだけど、心の奥の方はずっと震えている感じ。傍から見ると強い女の子だけど、誰よりも今の状況が怖いと思っている。その根っこの部分は忘れないようにしようと考えながら演じました。

――この映画に登場する人物は、誰もが傷を持っていて、互いを分かり合おうとしません。全編にわたって息詰まるような緊張感がありますが、現場の雰囲気はどのような感じでしたか?

萩原 みなさんが現場入りしてご挨拶したタイミングから、ちゃんと距離を取ってくださっていました。役の関係性そのままに、絶対に距離を詰めないという雰囲気がなんとなくありました。カットがかかると、各々が各々でいるような感じでした。だから休憩中も、ほぼ会話をしなかったです。もちろん大人同士だから、気は使ってくださるんですけど、変な気まずさみたいなものがすごくリアルで。みなさん、なんとなく私の顔を見るときは気まずそうで、距離を感じるな、みたいな(笑)。

――まさに映画の世界そのままの空気が流れていたんですね。宮岡太郎監督の演出はいかがでしたか?

萩原 監督は現場で一番明るくて、楽しそうで、演技は基本任せてもらえるんですけど、ちゃんと場の中心にいるのが印象的でした。

――映画の舞台となる小夜の実家が、濃密な空間で、映画の世界観を雄弁に物語っているなと感じました。

萩尾 実は監督のご実家なんです。現場入りする前に聞いた時は「ご家族のご理解がすごい!」と驚きました。実際に行ったら、とても広くて、「ここが実家なんですか?」とさらに驚きました。こんなに広い玄関を見たことがなかったですからね。それが映像になった時に独特な空間になっていて面白かったです。

――演じていて特に難しかったシーンはありますか?

萩原 布施野さん(⽊⼝健太)とのシーンは全て難しかったですね。言葉尻や、どこで目線を動かすかだけで、お客さんが離れてしまうこともあるなと思いました。小夜が布施野さんをどう思っているか、逆に布施野さんが小夜をどう思っているかというところが、この映画では大事だから、2人で会話をするシーンは難しかったですね。