どんな役がきても、あまり気負いたくない
――初めて『彼女が好きなものは』の台本を読んだ印象はいかがでしたか?
神尾 主人公の心情や葛藤、人間関係が丁寧に描かれているなという印象を受けました。ナイーブな内容ですが、真摯に当事者と向き合って書かれていて、まったく嫌味もないし、茶化している感じもないので、誠実な作品だと思いました。
――神尾さん演じる高校生・安藤純は、周囲にゲイであることを隠して、妻子ある年上の男性・誠(今井翼)と付き合い、自分に思いを寄せるBL好きの女子高生・三浦紗枝(山田杏奈)とも交際します。相手によって違った顔を見せる純を演じる上で苦労したことはありますか?
神尾 最初は目線とか仕草をちょっと意識しましたけど、役が馴染んできてからは、クラスメイト、紗枝、誠さんという区別も自然とできるようになりました。実際に相手の芝居を見て掴めるものがたくさんあったなと思います。
――神尾さん自身、学生時代に同性愛者の方は身近にいましたか?
神尾 隠していただけかもしれないですけど、周りにはいなくて、自分とは遠い存在だと思っていました。演じているときは、「本当に自分で良かったのかな」という思いもありましたが、純を通じて価値観が広がったなという感覚がありました。
――主演のプレッシャーはありましたか?
神尾 特になかったです。基本的にどんな役がきても、あまり気負いたくないというのはあります。主演といっても、自分一人の力で作り上げるものではないですしね。
――共演の山田杏奈さんの印象はいかがでしたか?
神尾 初めて共演したのは中学3年生のときで、今回が3回目になります。会うたびに洗練されて進化を感じます。お互いのことを知っているからこそ、相手の出方やアプローチの仕方も理解できていて、現場もスムーズに進みました。
――今井翼さんの印象はいかがでしたか?
神尾 役に向き合って監督と議論して、すごく真面目な方でした。でも本番以外のところではフランクに話しかけてくださりました。
――前田旺志郎さん演じる亮平は、何があっても純を支える明るいキャラクターで、救いを与える存在でした。
神尾 亮平は当て書きって聞いたんですけど、役そのままに、現場の明るいムードを作ってくれました。
――共演者は同世代が多いですが、ライバル意識はありましたか?
神尾 同じくらいの世代でも、自分にないものをもっていたりするので刺激をもらえましたし、単純にすごいなって思いました。昔から周りと自分を比べて悔しいみたいな感情はないほうなんです。ただ、同じく高校が舞台だったドラマ「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」(2019年)のときは、ライバル心がありました。たぶん当時は、そこまで自分のスタイルが確立されていなかったからで、今は自分に合うスタイルが分かってきたのかもしれません。
――草野翔吾監督の演出はいかがでしたか?
神尾 こうしてほしいというのが明確にあるので分かりやすかったです。世の中に対して諦めがあるところや、相手に応じて雰囲気を変えるなど、純に対しての解釈も僕と草野監督で一致していたので、うまくできたかなって思います。
――純はすごく繊細な性格ですが、神尾さん自身はいかがですか?
神尾 あまり自分のことが分からないんですよ。友達からも、「人格がいっぱいある」「現場で会うときとプライベートで会うときが全然違う」と言われます。でもそれは意識している訳ではなくて、自分の居やすい状態でいるだけなんです。もしかしたら現場の雰囲気に左右されるかもしれないです。うるさいメンバーと一緒だったら逆に静かにしていますし、誰もしゃべらないんだったら、率先して盛り上げようみたいな。人や相手のテンションによっても変わります。常に自然体でいたいという気持ちがあって、自然体でいられるポジションを無意識に探しているのかもしれません。