絶対に主人公の海星役は他の人に渡したくなかった
――佐藤さんは柳内大樹さんの作品を愛読されていたそうですが、『軍艦少年』は今回のオファーがあって初めて読んだとお聞きしました。そのときの印象をお聞かせください。
佐藤 熱くてまっすぐなストーリーだなと思いました。良い意味で昭和の男臭さや仁義を感じ、登場人物に一本筋が通っていて心にグサッと刺さってきました。本当に良い作品に出合えたなというのが読んだときの感想でした。しかも主人公の海星役を僕にまかせたいと言ってくださっていると。もしもオーディションで配役を決めるとしても、絶対に海星役は他の人に渡したくないと思うぐらい漫画に感情移入しました。
――海星というキャラクターに惚れ込んだんですね。
佐藤 Yuki Saito監督との1回目の顔合わせから、僕は啖呵を切るような勢いで参加させてもらえたんです(笑)。その時点では他のキャストさんは決まっていなかったんですけど、まだコロナ禍の前だったので、「現場に入る前に、可能な限り出演する役者さんが集まる本読みの場を作ってください」とお願いして、「本読みまでに全部セリフを覚えていきます。僕がこれぐらい本気でやってますというのを伝えたい」と言いました。
――並々ならぬ意気込みが伝わってきます。漫画原作ならではの役作りはありましたか?
佐藤 僕は漫画や小説が原作の作品に出演することが多いのですが、そういう難しさはあまり感じなかったです。少女漫画の場合は、ファンタジーの要素が多いので、実写化するのに難しい部分もあります。自分が演じる意味を考えながら、夢は壊したくないし、でもリアルさも必要だし、その落としどころに悩みます。でも『軍艦少年』は、一昔前が舞台ですが今にも通じる、どこにでもいる家族、少年たちの話だから、すごくリアルです。感じるものは本物だったので、漫画の実写化という意味での難しさはなかったです。
――どの登場人物もリアルで等身大だなと感じましたが、中でも佐藤さん演じる海星は愛すべきキャラクターでした。
佐藤 海星という役は本当に魅力的で、自分の中で甘えとかはあるんですけど、もがいている過程すらも、ちゃんと筋が通っています。原作の漫画を読んだときの高揚感を、映画を観た人に伝えられるか、それ以上の熱い感情を与えられるかという意味でのプレッシャーはありました。この作品は生身の人間が演じることによって、よりキャラクターに血が通うだろうと感じたので、そこを大事にして演じようと思って参加させていただきました。
――佐藤さんの引き締まった肉体が、ケンカシーンに説得力を与えていましたが、ボディメイクなどはされましたか?
佐藤 筋トレで体重を5キロほど増やしました。海星はケンカの多い役で、ポスターだけを見るとヤンキー気質な感じなんですけど、もともと普通の青年なんです。生まれつきがたいのいい青年に見えるように意識しました。あとクライマックスで対峙する一ノ瀬ワタルさんが相当鍛えていて。ワタルさんとは何回か共演したことがあるんですけど、雰囲気がある人だから、対峙したときに一目見て、「お前こいつには勝てんやろ!」って思われるのは損だなと思ったんです。もともと僕は線が細いので、できる限り鍛え過ぎず、かといってひょろっとし過ぎず、現場に入る前に意識して準備しました。
――バトルシーンが多いですけど、どれも痛みの伴うものというのも本作の大きな特徴かと思います。
佐藤 原作自体がそうなんですけど、『軍艦少年』はケンカをエンタメとして描いていないというか。感情の行き場やぶつかり合いの手段を、ケンカという形で選んでいるだけなんです。お互いに「譲れないものがある」というよりは、「舐められたくない」みたいなちっちゃなことかもしれないけど、この作品に登場する少年たちは、それを大切にしていて、そういうところで力を見せつけてしまう。どんなに人を殴っても何も解決しないやり場のなさ、痛々しさって、25歳の自分にとってはすごく理解できます。人を殴ってスカッとする、かっこいいというアクションじゃなくて、ケンカを通して暴力のやるせなさという負の部分が見えてくるのが、海星を演じる上で大切だったのかなと思います。