感情の起伏が激しい主人公を演じるのは難しかった
――映画『偽りのないhappy end』は、妹が行方不明になった姉二人が、たまたま知り合い、運命に導かれるように一緒に捜索するというミステリー仕立ての作品です。初めて脚本を読んだときは、どのような印象を受けましたか?
鳴海 私が演じたエイミは色々なことに巻き込まれるので、感情の変化が激しくて、今まで自分が演じてきたことのない初めての役でした。「この作品面白いな」と思った反面、「私にできるだろうか」という不安もありました。でも松尾大輔監督に、「考えてお芝居をするんじゃなくて、現場で生まれた感情を大切にしてほしい」というふうに言ってもらったんです。それまでは事前に演技プランを立てて演じようと思っていたんですけど、その言葉で気持ちを切り替えて現場に臨みました。
――エイミは妹を探す過程で、いかに自分が妹のことを知らなかったのかに気づき、徐々に追い込まれて狂気を帯びていきます。
鳴海 過去から逃げ続けている人間なんですよね。本当は優しい子なんですけど、自分が犯した過ちがどんどんエスカレートしていって、思わぬラストに繋がっていきます。
――どんな役作りをされましたか?
鳴海 エイミは26歳なんですけど、当時の私は20歳。なので、まずは大人っぽく見えるよう、髪の毛を伸ばすところから始めました。エイミは過去のトラウマから携帯を持っていないので、ロケ中は基本的に自分自身の携帯の電源を切って、携帯には触れないようにしました。感情からではなく、髪型とか目に見えるものから役作りをしていきました。私には妹がいないのですが、少しでもお姉さんらしくするために大人っぽいしゃべり方やしぐさを心がけながら現場で感情を作って、エイミを作り上げていきました。
――エイミは喜怒哀楽がとても激しいですが、鳴海さんにもそういう部分はありますか?
鳴海 私は根っから明るい人間で、あまり怒ったり暗くなることはないので、エイミとは全く違いますね。感情の起伏が激しいエイミを演じるのは難しかったです。共通点があるとしたら、上京してからのエイミは過去を隠しているので、どこか繕っている部分があります。私も人前では、よく見られたいというところがあるので、その部分はエイミと似ているかもしれません。
――鳴海さんは兵庫県出身ですが、エイミのように故郷を捨てるみたいな感覚は理解できますか?
鳴海 まったく理解できないです。かといって「地元が一番!」というわけでもなく、東京と同じぐらい地元が好きという感覚です。
――W主演の仲万美さんにインタビューした際、仲さんも自身が演じたヒヨリのように感情的な性格ではないので悩んでいて、鳴海さんと話したことで安心したと仰っていました。
鳴海 撮影に入る前日、滋賀で万美さんと一緒に夜ご飯を食べさせていただいたんです。私も主演として不安が大きかったので、この気持ちをW主演である万美さんにもお伝えしておこうと思いました。万美さんも、「分かる!実は私もすごく悩んでいるんだよ」と言ってくださって、そこで意気投合しました。話しているうちに自然と「正解はないんだから二人とも分からないままで行った方がいいのかもしれない」と思いました。万美さんがいてくれたおかげで、そういう考え方になれてすごく心強かったです。
――劇中では、まるでエイミが乗り移ったかのような鬼気迫る演技でしたが、役にひきずられることはありましたか?
鳴海 お芝居をする直前は、シリアスなシーンだと少し時間が欲しいと思いますが、終わった後は切り替えができるタイプなので、役のせいで気が重くなることは一切なかったです。それはどの現場でもそうです。
――松尾監督の演出はいかがでしたか?
鳴海 柔らかくて優しい方なんですけど、納得がいくシーンが撮れるまでは絶対にOKを出さない方です。あえて具体的な外面の演技には触れずに、感情の面でダメ出しをするという印象でした。当時の私はまだまだ経験が浅くて、おそらく外面で芝居をしようとしていたんです。そこで松尾監督がOKを出してくれなかったおかげで、感情の深みが出るお芝居を学ぶことができました。
――先ほどお話に出た「現場で生まれた感情を大切」にする演技は、すぐに対応することができましたか?
鳴海 クランクインの前は不安もありましたけど、割り切ったというか、現場に身を任せた感じです。素敵な役者さんたちが揃っていたので、実際に対面してセリフを言うことで生まれたものを信じようと思って挑みました。
――全編にわたってシリアスな内容ですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?
鳴海 スタッフの方々が松尾監督と長年やってこられた人たちだったので、そこまでシリアスにはなり過ぎませんでした。でも本番では松尾監督がピリッとした空気をしっかり作ってくださったので、気持ちが途切れることはなかったです。