妄想を自分で思い描けるというのは大事

――高校2年生でバンドを組んで、学生時代は音楽中心の生活を送っていたんですか?

尾崎 基本的にはそうですね。スタジオに入って、ライブハウスでライブをやって。3年生の最後の方になると、ライブ当日はリハーサルがあったので、よく早退していました。自分だけ授業を抜けて、ライブハウスに行くという優越感がありました(笑)。でも、本番になるとガラガラのライブハウスでライブをしていたんです。まだリハの方が、対バンの人たちがフロアで準備をしている関係でお客さんがいて。その状況はきつかったですね。当時は3人編成でやっていたんですけど、とにかくみんな下手すぎて……。

――とはいえ高校時代からライブハウスに出ているのはすごいと思います。

尾崎 初回は高校生イベントだからチケットが500円と安かったので、チケットノルマも楽だったんです。初めてのライブには友達もいっぱい来てくれて、楽しそうにしてくれました。そしたらライブハウスの人から、「お前らはレベルが違うから、もう普通のバンドとして見るよ。だから次からは大人の部に出て」と言われて、自分たちが大人の部にデビューするのかと喜んでいたんですけど、ただチケットノルマを上げたいだけだったんです。チケットが高くなった途端に、お客さんもいないし、ノルマがあるのでお金もないし、メンバー同士の雰囲気も険悪になっていったんです。友達は2回目から早速来なくなって、どんなに誘っても「またか……」と言われるし、そのうち電話にも出てもらえなくなって、だんだん疎遠になっていきました。10代の頃はずっとそんな感じでしたね。

――高校卒業後は、製本会社に正社員として就職したそうですね。

尾崎 バンドメンバーには黙って就職したんです。昼間は働いているのを隠して、帰ってすぐにスタジオに行って練習していました。しかも親にはバンドを続けていることを黙っていて。結局、会社は1年で辞めて、それからはバイトを転々としながらバンド活動を続けました。

――その時代のエピソードは尾崎さんの処女小説『祐介』にも出てきますよね。

尾崎 当時は『祐介』のモデルになったスーパーで夜勤をしていました。そのスーパーがある地域は街自体が汚くて、そこら中にゴミが落ちていて、その光景を出勤途中に見るだけで落ち込むんですよ。お客さんも変わった人が多くて、近所のスナックのおじさんが酒臭い息をまき散らしながら、店で出すおつまみ用のウインナーとかキャベツを買いに来るんです。ゴミ捨ての時は、監視カメラから外れたところでコーヒーのしみが付いている新聞のエロページを見て、そこに10代の鬱屈した気持ちをぶつけていました。

――今のバンドメンバーになるまでに紆余曲折がありましたが、モチベーションが下がることはありませんでしたか?

尾崎 常に下だったから、もう下がりようがなかったです。逆にそれが良かったのかもしれないですね。自分は何をやっているんだろうという気持ちを常に持っていたんですけど、音楽を辞める勇気もなかったんです。ただ、「これだけのお客さんの前で、こういうことをやって、こういう反応があって、ああいう人たちと友達になって」という妄想だけはしていました。スタジオに行く途中や帰り道、バイト中などに、ずっと妄想していましたね。そういうことを自分で思い描けるというのは大事だと思います。それができればまだ可能性がある。それだけは、子どもの頃から持っていてよかった感覚だなと思います。

――確固たる実績もなかったなか、どうして妄想をし続けられたのでしょうか?

尾崎 ライブハウスでやっていても本当に褒められないし、優秀なバンド同士はお互いのイベントに呼び合ったりしていたんですけど、それにもほとんど呼ばれたことがなかったし、悔しい思いばかりしていたんです。でも、ここにハマってないということは、もしかしたら逆にすごい可能性もあると思っていて。千葉の外れのライブハウスの中で、めちゃくちゃ評価されないことに、可能性を感じました。本当は喉から手が出るほど羨ましかったけれど、今じゃないんだ、今はまだ呼ばれていないんだと思うようにしていました。当時、ライブハウスの人に面と向かって「お前らはどうしていいか分からない。どこに入れていいか分からないから困る」と言われたんですけど、必ずどこかに分かってくれる人がいると信じていました。

――その時の反骨精神が、周りのバンドとは一線を画した結果に繋がったのかもしれないですね。どういう経緯で、今のメンバーは集まったんですか?

尾崎 それまでメンバーを集めても、どんどん辞めてしまうので、もう自分のことを分かってくれる人はいないと思っていたんです。だったら一人でやってみようと思って、サポートメンバーだったら変な期待もしないから、3人のミュージシャンをサポートメンバーとして集めたんです。これでダメだったら、もう辞めようと思っていました。

――今のメンバーが集まった時に、これでイケるみたいな確信はあったんですか?

尾崎 最初に音合わせをした時、全く演奏が合わなくて、一曲通してみたら笑ってしまうぐらいぐちゃぐちゃだったんです。そこそこ上手いメンバーを呼んだのに、なんだろうこれはとビックリして。中途半端に合わないとかじゃなくて、おもいっきり喧嘩しているというか、殴り合っているというか。だからこそ何か感じるものがありました。そこから時間をかけて、今に至ります。

――継続してみないと分からないこともあるということですね。最後に、進路を検討している読者にメッセージをお願いします。

尾崎 周りを見渡すと、上手くできる人がいるじゃないですか。それを見ていると、羨ましいと思うし落ち込む。でも、できないということはそんなに悪いことじゃない。自分もそうだったし、いまだにできないこともいっぱいあるんですけど、それはすごくチャンスだなと思います。できちゃえば、そこで成立して終わってしまう可能性もある。でも、できなければどんどん力が溜まっていくんです。だから、できなかった時はそういう感覚で捉えるといいと思います。できないということを少しポジティブに捉えれば、周りに対する気持ちも変わってくるはずです。

Information

6th ALBUM
『夜にしがみついて、朝で溶かして』
2021年12月8日(水)発売

収録曲
01. 料理
02. ポリコ
03. 二人の間
04. 四季
05. 愛す
06. しょうもな
07. 一生に一度愛してるよ
08. ニガツノナミダ
09. ナイトオンザプラネット
10. しらす
11. なんか出てきちゃってる
12. キケンナアソビ
13. モノマネ
14. 幽霊失格
15. こんなに悲しいのに腹が鳴る

<特装盤>
PROS-1920/¥7,700(税込)
仕様:CD+歌詞集『ことばのおべんきょう』
・特装盤特別仕様
・ゴムバンド(アメゴム)
・歌詞集(『ことばのおべんきょう』限定特別仕様512P想定)
・CD(全15曲収録)
【特装盤】の歌詞集『ことばのおべんきょう』は過去にリリースされた120曲が収録されております。

<初回限定盤>
UMCK-7147/¥6,600(税込)
仕様:CD+Blu-ray・初回限定盤特別仕様+ブックレット48P
・Blu-ray『クリープハイプの日 2021(仮)』完全版(全23曲+ドキュメンタリー)
・CD(全15曲収録)

<通常盤>
UMCK-1705/¥3,300(税込) 
仕様:CDのみ
・ジュエルケース+ブックレット24P
・CD(全15曲収録)

公式サイト

尾崎世界観

アーティスト

尾崎世界観(Vo/Gt)、小泉拓(Dr)、長谷川カオナシ(Ba)、小川幸慈(Gt)による4人組バンド「クリープハイプ」のメンバー。2001年、クリープハイプを結成。3 ピースバンドとして活動を開始する。2005年、下北沢を中心にライブ活動を活発化。多くの人から言われる「世界観が」という曖昧な評価に疑問を感じ、自ら尾崎世界観と名乗るようになる。2008年9月、メンバーが脱退し、尾崎世界観の一人ユニットとなる。2009年11月、現在の3人を正式メンバーに迎え、本格的に活動をスタート。2012年4月、メジャーデビュー。2016年6月、小説『祐介』発表。2021年1月、第164回芥川賞候補作となった単行本『母影』発表。

Photographer:GENKI(IIZUMIOFFICE),Interviewer:Takahiro Iguchi, Stylist:Hiroaki Iriyama, Hair&Make:Satoshi Tanimoto
衣装協力
ビンテージのシャツ:¥28,800/FRONT 11201
Tシャツ:¥3,800/FRONT 11201
パンツ:¥39,600/un/unbient /UN
サスペンダー:¥27,500/OLD JOE/OLD JOE FLAGSHIP STORE
シューズ:¥103,400/F.LLI. GIACOMETTI/トゥモローランド
ソックス:スタイリスト私物
ビンテージのブルゾン:¥19,800/FRONT 11201
シャツ:¥30,800/OLD JOE/OLD JOE FLAGSHIP STORE
スラックス:¥27,500/TOMORROWLAND/トゥモローランド
シューズ:¥27,500/Space Craft/HEMT PR
ソックス:スタイリスト私物
問い合わせ先
OLD JOE FLAGSHIP STORE ☎︎03-5738-7292  
ヘムトPR ☎︎03-6721-0882  
FRONT 11201 ☎︎03-6805-3897   
UN ☎︎085-921-5420  
トゥモローランド ☎︎0120-983-522