坂本監督に撮ってもらったことは人生の大事件

——役作りに関してもこれまでとは違うアプローチをされましたか?

橋本 本編との根本的な違いは、織田(作之助)さんに拾われて武装探偵社に入るという部分。それ以前の貧民街で生まれたということや過去の経験はほとんど一緒で、もうその時点で芥川という人物はある程度できあがっているので、基本的には変わりませんでした。ただ、先ほども言ったように周りの影響を受けて変わっていくので、そこは現場で皆さんとの会話の中で純粋に受け取ったものを返していこうと思い、固めるというよりは柔軟に対応していった感じです。

鳥越 環境が違うだけでこんなにもキャラクターが違うのかと思いました。(敦が)武装探偵社のときはツッコミや振り回されることが多くて、リアクションを取ったり、コメディー要素も強かったんです。それが、今回は明らかに違うので、ポートマフィアに所属する敦としてこれまでのようなコミカルな部分はそぎ落としたのですが、それでも核の部分は変えずにいようとしていました。

——お二人が対峙してのアクションシーンも見どころの一つですが、撮影時の舞台裏についても聞かせていただきたいです。

橋本 坂本(浩一)監督からは、特にアクションパートについて遠慮なしでどんどん指示していただきました。

鳥越 坂本監督もすごくテンションを上げてくださり、「じゃあこれもあれも」というふうに演出をつけ足してくださいました。そのときはそれに追いつくのに必死でしたけど、今思えば監督自身が楽しくなるくらいに僕らもそれに応えられたのかなと思っています。

——坂本監督は特撮作品も多く手がけています。映画の殺陣に関しても、これまでの舞台の演出とは違いましたか?

橋本 だいぶ違いました。特撮は昔から好きなので、坂本監督に撮ってもらったことは人生の大事件です。

鳥越 アクションの手数も尋常じゃなくて。

橋本 ブロックごとに長回しで撮っていて、被りが少しでもズレてしまうと最初からやり直しになります。そういう意味で緊張感もすごかったです。

——舞台と同じキャストの方が多く出演していますが、皆さんの映画化に対する反応はどのようなものでしたか?

鳥越 みんな興奮しています。一つの作品を作るためにたくさんのスタッフが動いて、なかなかできないようなことにチャレンジさせてもらったので新鮮さもありつつ、全員が役者として楽しんでこの作品に取り組めたなと感じました。

橋本 僕らもやるからにはほかの映画作品に負けないものを作ろうという思いで取り組みました。舞台で何年も一緒に寄り添ってきた役で映画に臨めることが僕たちの一番の武器だと思っていたので、その強みを最大限に活かせるように心がけました。

——今回のifの世界という設定は、お互いが役をしっかり理解できていなければ成立しなかった部分もあると思います。

鳥越 アクションシーンの撮影中は、これは祥平と僕じゃなかったらできなかった、と二人で話していました。しっかりとした関係性がないと相手のポテンシャルも分からないし気を使ってしまいますから。お互いをよく知っているのでやりとりもスムーズでしたし、やっぱり祥平とじゃなきゃダメだったと思います。

橋本 僕も鳥越くんに支えてもらって。あと、やはり役柄を深く理解した上で演じることができたのは助かりました。例えば、貧民街にいたときの芥川の感情も「文ステ」の頃からで役作りできていたので。何年もこの役と歩んできたからこそ、今回の映画ができたのかなと思います。タイミングも良くて、舞台『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』が終わってすぐに撮影に入ったんです。だから気持ち的にも途切れることなくそのまま現場に入れて、そこも大きかったですね。

——撮影現場で新たに俳優として学んだことはありますか?

橋本 いろいろあるんですけど、特にアクションについては勉強になりました。映像ではミリ単位でも腕が下がっていたりしたら殴っているように見えません。舞台だとある程度距離をとったところでも意外と殴っているように見えるんです。その繊細さをこの現場で学びましたね。

鳥越 映画はしっかり作り込んだ上で臨まないと1本のストーリーがちゃんと仕上がらないというか。余分なものを削ぎ落とす映像ならではの芝居はなかなか経験できないので、映画でそれを味わえたのはありがたいなと思います。