「怪獣の死体を片付ける映画」という発想の根源
――『大怪獣のあとしまつ』は、怪獣が死んでいるところから映画が始まります。この奇抜なアイデアはどのように思いつかれたのでしょうか?
三木 30年くらい前、作家をやっていたバラエティー番組で、「映画の中で行われているはずの間抜けな出来事」を特集するコーナーがあったんです。例えば、『007』シリーズでジェームズ・ボンドが海から上がり、潜水服を脱いで白いタキシードになる。でもそのときに本当は潜水服の下に苦労して白いタキシードを着る時間があるはずですよね。かなり大変だと思いますよ(笑)。その頃から、映画の映像化されていない時間に面白い出来事があるんじゃないかという、発想の根源みたいなものがありました。
――その視点を怪獣に持ち込もうと思ったのはいつ頃ですか?
三木 2006年頃、取材で次回作の構想を聞かれたときに、特に決まっていた訳ではないんですが「今度やるとしたら、ガメラの死体を片付ける映画」と話した記憶があります。きっとそのときからですね。
――今回の東映・松竹の共同企画としての話が出る前に、構想を練り始めていたのですか?
三木 全体の流れは何となく考えていました。最初、東映さんに「ある若者がショッカーになる話」という企画を提案したんです。でもあっさり却下、そのときは実現しなかった。映画『ジョーカー』も当たったし今なら出来るんじゃないかと思ったんですが。それでプロデューサーから他に企画がないかと聞かれて、提案したのが「怪獣の死体を片付ける映画」です。「面白そうなので脚本にしてください」という流れがあって、それが2013~2014年の話です。
――子どもの頃、特撮番組や映画はご覧になっていましたか?
三木 小学校高学年ぐらいまでは特撮番組をよく観ていました。今回怪獣の造形を担当してくれた若狭新一さんは60年生まれで、僕と特撮監督の佛田洋さんは61年生まれ。みんな同世代で、「ウルトラマン」を観て育っているし、『ゴジラ』をはじめ怪獣映画も大ブーム。ガメラを観たらみんなミドリガメを飼う、みたいな時代でした。
――その中でも特に好きな作品はありましたか?
三木 「ウルトラマン」ももちろん観ていたんですが、再放送で観た「ウルトラQ」が好きでした。日本版「トワイライトゾーン」という感じで、ああいう怪奇ムードに魅かれていました。
――本作に登場する怪獣「希望」には、どんな怪獣からの影響がありますか?
三木 やっぱりゴジラですかね。ただ、「ゴジラに似せないようにする」というのは命題としてはありました。若狭さんはゴジラ映画の造形をしていた方なので、どうしていくかは相談しながら考えました。
――怪獣の造形のこだわりを教えてください。
三木 基本的にティラノサウルスなどの、二足歩行の恐竜がベースになっています。恐竜って鳥類に近いですよね。だからひっくり返ったときに、足がピンと伸びた造形になりえるだろうと。あとは牛久大仏を見に行きました。牛久大仏って130メートルぐらいなんですが、「希望」が足をあげた高さが155メートルの設定なので、同じくらいのものが川の真ん中に立っているというイメージを掴むことができました。
――「希望」の造形物は6メートルもあったそうですが、怪獣の造形物としてはかなり大きいですね。
三木 大きいですね。動かす前提の着ぐるみだと、6メートルという大きさで作ることはなかなか難しいんですが、今回は死んでいるので、それも可能でした。大きく作った方が、怪獣のディテールを細かく作れるので、死んでいるメリットを活かせました。
――怪獣をフルCGではなく造形物を作ることにしたというのはなぜでしょうか?
三木 今回の造形スタッフは、平成のゴジラシリーズを手掛けていた方たちで、素晴らしい仕事をしていただきました。今ハリウッドの映画も、わりとアナログの方向に向かっているんじゃないかな。要するに実体は実体として残すということです。『パイレーツオブカリビアン』とかもメイキングを見ると、クラーケンが船を壊すシーンは、実際に大きな船の模型を巨大な丸太みたいなもので壊して撮っています。CGに実体の持つ情報量の多さや豊かを加えていくやり方が、SFXのトレンドのようになっているのではないかと思います。