いろんな人に支えられていることが見えてくる

――撮影時と現在では、美希への視点も変化したのでしょうか?

上原 撮影から3年経った今、周囲に就職する人も増えてきて、「就職前に聞いた話と違う」というような話を聞くようになりました。就職できたというキラキラしたところから突き落とされた、みたいな。私は最初から芝居という制約の中で美希を演じましたが、「ああ、きっとこういう気持ちなんだろうな」と今だから理解できる部分もあります。実際、周りにも「本当に自分がやりたかったのはこれだったのか?」と悩んでいる友達もいます。その子は、洋服が好きでアパレル業界に入って販売員になりました。洋服も仕事も好きだけど、売り方が自分に合っていない。自分はお客さんと密に寄り添いたいのに、とにかく売らなきゃいけない。やりたいことに対して上手く自分を発揮できないもどかしさがあるみたいです。

――社会に出ると、どうしてもそういうジレンマはありますよね。

上原 美希もお笑いが大好きで、お笑いのことは誰よりも分かっている自信がある。でも発言権はないし、要所要所の詰めも甘い。そういうところは私もあるんです。芝居のことを考えているときでも、現場でも、ここまで考え切れてなかったなということがあります。でもそれは天才じゃないからしょうがないなと思っています。

――美希にシンパシーを感じていたんですね。

上原 演じているときは、完全に美希になりきっていました。忙しくて些細なことでイラっとしちゃう瞬間。何を言われても「はい」としか言えないとき。でも、ちょっと時間が経ってから俯瞰すると、いろんな人に支えられていることが見えてくるんです。当時はそうやって美希について考えたこと、自分の心情を台本に書きこんでいました。この映画に嫌なキャラクターはいなくて。厳しい上司のことを、当時は「嫌な上司だな」と受け取っていましたが、それも上司としての優しさでした。

――仰る通り、美希の視点だと感じの悪い上司も、実は美希のことを思って厳しくしています。

上原 美希が最後のほうで、いろいろ考えられるようになったのは、彼氏や上司の言葉や環境のおかげだと思います。あと、「バッドボーイズの(大溝)清人さんを見つけた!」とか、「天竺鼠の川原(克己)さんと同じエレベーターに乗っちゃった」とか、ちょっとした出会いがモチベーションになって、自分自身を支える一つになるんだなと思いました。そのときは「ラッキー!」くらいにしか思っていないことが、忙しさで疲弊していく中で、小さな楽しみになっています。

――台本にご自身の心情を書き込むことは多いんですか?

上原 時と場合によりますが、『この街と私』は短期間での撮影ということもあって、いろいろ書いていましたし、それが役に立ちました。

――本作は永井和男監督の実話を元にしたとのことですが、監督の演出はいかがでしたか?

上原 細かいことではなく、全体的なポイントとして「もうちょっとこうした方がいい」と言われていた記憶があります。基本的に監督は生っぽいものを目指していたと思います。

――上原さんの演技もナチュラルで、日常を切り取ったような生々しさがありました。

上原 もともと「お芝居!」という感じの演技が得意なほうではないのですが、この作品に関しては、きっと監督の演出意図があったのかなと思っています。撮影のスケジュールはタイトだったのですが、セリフを立ててという感じではなく、空気感を大切にしていただけたのかなと思います。