意識を変えてくれたマネージャーの言葉
――上原さんは幼少の頃からこのお仕事をされていますが、ご自身の意志だったんですか?
上原 最初は周りに勧められてという感じでした。子役時代はフラっとやっていたというか、習い事の延長でした。今でも「よし仕事だ!セリフ喋るぞ!」という感じではやっていないんですが、初めての映画やドラマにレギュラーで出させていただくようになったときに、この世界で食べていきたい!と思いました。周りからは「しっかりしてるね」「目標が決まっていていいね」と言われていましたが、目標が決まっていればいいという訳ではないし、上手くできている訳でもない。そういう葛藤はずっとありました。競争ですから、悔しいなと思っても、それがバネにならずに負けてしまって流されていっていることもあった気がします。
――芸能以外の道を考えたことはありますか?
上原 他の道は考えませんでした。ただ、今後どうしたいのか、本当に今のお仕事が好きなのかなという点でフワフワしていた時期があって。そのときにマネージャーに「それじゃ困る!」と注意されました。「平均点を出されても困る」みたいな。
――なぜ、そう言われたと自己分析しますか?
上原 たぶん自分ができる範疇の中でやろうとしていたのだと思います。自分にそんなつもりはなくても、周りにはそう見られていたんだと思います。年齢を重ねると、そういうことをきちんと言ってくれる人はどんどん少なくなっていきます。たいして大物でもないのにキャリアだけ長くて、ある程度、現場の動きも分かっている人間に、誰だって意見を言いづらいですよね。もちろんそれでいいとは自分でも思っていないけど、どうすればいいのか分からなかったときに、ちゃんと整理して伝えてもらえたのはありがたかったです。
――そこで迷いは消えたんですか?
上原 作品に対する考え方は深まって、自分を強く出せるようになりました。でもその基準はまたどんどん上がっています。
――改めて『この街と私』の見どころをお聞きしたいんですが、本作は進路選択を控えるティーンにも響く内容です。
上原 私自身18〜19歳の頃はすごくモヤモヤしていました。何が原因か分からないのに、消化しきれない何かがずっとあって。この作品の撮影中は、まだその渦中にいるときでした。「これで合っていたのかな」「選択間違っちゃったのかな」と考えることもありました。私は仕事だけではなく、日常の人間関係でも引きずりやすいタイプで、「うまく言えなかったな」「あんなこと言っちゃったな」と考え込んで煮詰まっていくことが多かったんです。当時はそんな時期でした。
――上原さん自身が美希のようなモヤモヤした状況だったんですね。
上原 ティーンのみなさんも、たとえば高校・大学進学で目指していたところに行けないこともあれば、目指していたところに行けたけれど、そこで力を発揮できなかったみたいなことが、大小に関わらずあると思います。それをぐるぐる悩んでいるのは苦しいし、ガツンと背中を押してくれる人もそれほど周りにはいない。もちろん映画みたいに分かりやすく、人生が変わった瞬間を経験された方もいるかもしれないけれど、誰もがそうではないと思います。『この街と私』にも、美希のスイッチをバチッ!と入れてくれるような人は出てきません。ただ自分の好きなお笑い芸人に会ったとか、ちょっとした偶然に少しだけ支えられる。そういったものでも背中を押してもらえるというか、自分を見つめ直す機会になる瞬間はあると思うので、本作では衝撃的な事件は起きないんですけど、観ていただいた方の、そういう瞬間にもう少しフォーカスを向けられるような作品になったら嬉しいです。
Information
『この街と私』
3月4日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開
上原実矩
佐野弘樹 宮田佳典 伊藤慶徳
LiLiCo 川原克己(天竺鼠) ですよ。大西ライオン 大溝清人(バッドボーイズ)
監督・脚本・編集 永井和男
制作 よしもとクリエイティブ・エージェンシー
配給 アルミード
2019年/日本/カラー/16:9/43分 地域発信型映画「この街と私」製作委員会
ADをしている23歳の村田美希(上原実矩)は、お笑いの番組が作りたくて制作会社に入ったが、深夜に街の良さを紹介する関東のローカル番組『この街と私』の担当として休みなく働いている。彼氏の翔也(佐野弘樹)と同棲している部屋には寝に帰っている状況で、彼氏の話もろくに聞けていない。ある日、お笑いの特番に企画を出したものの、一蹴されてしまった美希だが、『この街と私』の街頭インタビューを初めて一人で任せられる。撮ってきた素材を見たディレクターに、「使えない」と言われた美希は…
