いろんな変化が起き続けていたので、描きやすいものを抽出していた

――初めての小説執筆は、スムーズに書くことはできましたか?

やしろ もともと僕は話を考えることが好きで、舞台の脚本かドラマの脚本かなど会話劇としてアウトプットしていました。だから小説は難しかったし、描写の部分や語彙力のなさを痛感しました。「ちょっと前に同じ単語を使っているじゃん。違う単語だと何があるの?」とか「言い回しを変えたら、ちょっと意味が違ってくるんじゃないか」とか。小説が好きで読んできた方は、小説を書くための土台があるんだなと改めて思いました。僕はテレビっ子で、20歳になるまで小説を1冊も読んだことがなかった。20歳からの約10年間はたくさん読みましたが、若い頃のツケが出たなと思いました。ただ小説でも会話を多く書かせてもらえたので、すごく楽になりました

――書くこと自体は苦になりませんでしたか?

やしろ かなり待っていただいた編集者さんの前では言いづらいのですが、ストレスはありました。「何で引き受けたんだろう?謝ってゼロにしてもらえないかな」と何度も思いました。設定があってもあまり出なくなってきたり、遊びたくなったり(笑)。

――それにしても初めての小説で25本も書き下ろししたのはすごいです。

やしろ こういうと語弊があるかもしれませんが、コロナ禍が収まらなかったことは、作品的には幸いだった面があります。どんどん新しい情報が出てきて、どんどん事態は動いていきます。たとえば家にいなさいよと言われた期間が3日か2か月かでは、おそらく起こる事件も変わってきます。ルールが変わっていなくても、人々の対応が変わってくるなど、とにかくいろんな変化が起き続けていたので、僕は描きやすいものを抽出していた感じです。ただ、コロナ禍が続き、大変な方がいる状況のなかでの作業で、罪悪感のようなものもありました。

――掲載する作品の順序はどのようにして決めましたか?

やしろ まず1回ランダムに書いて、20本以上揃った時点で順番を編集者の方と一緒に考えさせていただいて、並べていきました。そこで要素として足りないものを後で何本か追加しました。たとえば舞台の話ですが、もともとは1本で完結させるつもりでいたのですが、3部作をご提案いただいたんです。初めは戸惑いもありました。実際、2つ目まではすっといったのですが、3つ目の出口がなかなか描けなかった。いろいろありながら、でも結果的に3本できたし、それを前半・中盤・後半と置いていただいたことで、軸を作ってもらえた気がします。

――今後も小説を書いていきたいですか?

やしろ 今回書けなかった話や、収まりきらなかった話を小説にしてみたいです。今までもこれはラジオで話す、これはドラマの脚本にしてみよう、これは舞台の脚本にしようなど、頭に浮かんだものをどこで表現するのが一番いいのかな、と振り分け続けてきました。それが今回小説にしてみようという、今までになかったものが出たということが一番大きな変化かもしれないです。