これからは、何かする時は二人でやる

ついに迎えた運命の日。曲が完成した雅功はさっそく寝ている彪我を叩き起こすと、「聴いて!」とにこにこしながらギターを手にする。しかし彪我は「聴かないよ」「もう聴いたから。音漏れでばっちりフルコーラス」と……。同じ屋根の下で生活している分、雅功が家で曲作りをすれば、どうしたって彪我の耳にも聴こえてくる。

「俺の曲、良いの?悪いの?」と質問する雅功に、彪我は間をおいて「全然だめ、最高とは言えない」と結論を告げる。「じゃあ、しょうがないね……」。落胆した表情をみせる雅功だったが、彪我は続けて「俺ならこうするのにな、ってところが何か所かあったけど、聴く?」と彪我に語りかける。

雅功が顔を上げると、「正直、(俺が)今まで作った曲もすごく良いと思うものはなかった」「でも、(雅功と)二人ならできるかも」。約束の時間である夕方まで、まだ時間はある。それまでに良い曲を作ろう。彪我の言葉を受けた雅功の表情がどんどん明るさを取り戻していく。

二人で黙々と作業を続け、やっと納得いくものができたのは約束の時間がとっくに過ぎた夜。間に合わなかったとつぶやく雅功に、「完成した曲は(雅功の持ってきた)夕方の時点で良い曲だった」と答える彪我。雅功の曲を彪我も認めたのだ。雅功の情熱や行動が、かたくなに否定しつつも音楽を捨てきれない彪我の心に届いたのだろう。

再び音楽を一緒にやる条件として彪我が提示したのは「これからは、何かする時は二人でやる」ということ。「そうしないと良いものはできないから」。雅功も満面の笑みで大きくうなずく。

出来上がった新曲のタイトルは「辛夷のつぼみ」。ステージから今日一番の笑顔で気持ちよさそうに歌う姿に思わず心打たれる。辛夷(コブシ)の花言葉の一つは「友情」だが、その言葉どおりにより結束した彼らは、この先もどんな困難でさえ乗り越えていくのだろう。

公演のラストを飾ったのは「みちくさこうしんきょく」。迷いを払拭した清々しいまでの歌いっぷりからは、冒頭の解散ライブとは違い、新たなスタートを切る二人の決意が込められているように感じた。

「僕たちの音楽はここから始まります。これから先、みなさんに淋しい冬が訪れるかもしれません。ですが、いつか必ず春がやってきてきれいな花が咲くはずです。僕たちはそのときまで新しい一歩を踏み出していこうと思います。これからの僕たちを観ていてください!」と訴える彪我。雅功も「僕たち自身がきれいな花を咲かせます」と続けると、会場から大きな拍手が二人に送られた。

終演後に再び登場した二人。彪我は「脚本も雅功がイチから考えてくれた。僕が言うのもおこがましいですけど、この脚本は自信を持っていろんな方にお話ししていきたいものだと思います。自慢の相方を持ったと思っております」と感慨深く語ると、雅功が気恥ずかしそうに微笑む。最後には前日に急遽作ったという「辛夷のつぼみ」のバンドサウンドアレンジを披露し、舞台を締めくくった。

さくらしめじ

アーティスト

2014年6月に結成した田中雅功と高田彪我によるスターダストプロモーションのフォークデュオ。2015年に1stシングル『いくじなし/きのうのゆめ』をリリース。その後、全国47都道府県を巡る無料ライブイベントなど全国各地で活動を展開し、2018年には初のアルバム『ハルシメジ』を発売。2022年5月には隔月ワンマンライブ「新種しめじの定期便~5月の味覚~」のほか、「アルペンアウトドアーズ プレゼンツ HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL 2022」への出演を予定している。

Reporter:Tetsu Takahashi