自分の中に思い浮かんでくる空想をひたすら書き連ねていた
――小説を書き始めたきっかけは何だったのでしょう?
大前 就職活動をしていた頃、ストレスが溜まって気分転換をしたくなったんです。何か作品を作ろうと思って、一番気軽に始められて初期費用がかからない小説を書くことにしました。
――実際に書き始めてみていかがでしたか?
大前 特別なことをしているという意識はそれほどなかったので、ただただ日常の延長という感じではありました。自分の中に思い浮かんでくる空想をひたすら書き連ねていました。
――小説のアイディアはどのようなときに生まれますか?
大前 ぼーっとしているときが多いです(笑)。あとは漫画の影響が大きいかもしれません。小説を読み始めたのはわりと大人になってからですが、漫画は『週刊少年ジャンプ』の能力系の漫画やバトル漫画を小さい頃からたくさん読んでいました。たとえば『ONE PIECE』だったら、自分ならどの悪魔の実を食べるだろう、という妄想をよくしていたんです。そういう妄想が根本にあるのかと思います。
――小説を書きたいと思っても、最後まで書き上げられないという人も多いと思います。書き上げるために大切なことは何でしょうか?
大前 基本的に、小説はどう始まって、どう終わってもいいものなんです。たとえば日記でも「これは小説です」って言ってしまえば小説にできてしまうし、周りの人もそう受け取ってくれるものだと思います。「これが小説だ」と決めつけてしまわず、とにかく文章を書いてみて、内容や文章のリズムなど、ここで終わりかなと自分が思ったところでなんとなく終わらせてみることが大事な気がします。数行の日記、1ページでもいいので、まずは短いものをどんどん作っていけば自然と長いものも作れるようになっていくのではないでしょうか。作品を完成させたという体験を少しずつ積み上げていくことが、小説を書いていく上では大切だと思っています。
――さまざまな形のエンターテイメントが増えていくなかで、本の魅力はどこにあると思いますか?
大前 本は、動画のようにその場で瞬間的に反応が返ってくるものではないということが利点かもしれない、と最近思いました。読んでくれている人とある程度の距離を置けるし、自分にとっても、本という自分から離れた形のものとしてあることで、距離を置くことができます。人間関係や、人によく見られたいという想いから離れたところにある表現だと思うので、SNS疲れしている現代人にはぴったりなのではないでしょうか。著者と読者の距離が遠いぶん、じっくり考えるきっかけになれるところが魅力だと思います。
――実際にSNSでの距離感や空気に疲れを感じたことはありますか?
大前 自分のことではないのですが、いわゆるバズった人や炎上した人、いいねやリツイートの数が増えてアテンションが高まった人に対して、リプライなどのコメント欄にみんなが好き勝手に書いて、大喜利選手権のような状態になっているのをよく見かけます。そうなると、個人ではなく公共物のようになってしまうのが不思議ですよね。
――公共での言葉使いや表現に関しては、『おもろい以外いらんねん』でも描かれていて、「アメトーーク!」の読書芸人回で紹介されました。
大前 「アメトーーク!」で紹介していただいたことで、新たに読んでくださった方が結構いらっしゃるようで嬉しいです。笑いやその場のノリのようなものが強制する空気に違和感を抱くという内容に共感して、自分の言葉で語っていらっしゃる方がちらほらいたことが印象的でした。『おもろい以外いらんねん』も『きみだからさびしい』も、答えを提示しているわけではないので、読んでくださった方が一緒に悩んだり考えたりしていけたらいいなと思います。