自分が若いときに起こったことは忘れない

――『曼陀羅華X』は日本を震撼させた実在の教団や事件がモチーフとなっています。今、その題材を扱われた背景には何があったのでしょう?

古川 たとえば高校生であれば、今、自分の周りに起きていることを一生抱えて生きていくと思います。この時代に生きていればコロナのことを考えるし、ウクライナはどうなるのかと考える子もいるかもしれない。自分が若いときに起こったことは忘れないんですよ。だから、地下鉄サリン事件がみんなの中では古い出来事になっていても、当時を若者として体験していた人たちは「電車が数本違っていたら……」と考えることもあるし、僕自身もいろんな記憶が自分の中に残っています。

――事件当時の空気を体感されて、時間を置いて改めて事件を扱ったときの感覚に違いはありましたか?

古川 ありますね。特にオウム真理教の場合は、事件が起きる数年前まではマスコミや僕たちを含めて、彼らを面白い集団だと思っていましたし、大御所のタレントたちもこぞって教祖(麻原彰晃)と対談したがっていた。そんな風に自分たちが持ち上げて遊んできたのに、事件が起きてしまえば「気持ち悪い」「全部抹殺しよう」に切り替わってしまう。4年前の2018年に「はい、これで平成は終わり」と言わんばかりに教団幹部13名の死刑が執行されたときに、この国ってすごいな、何か起きたら全部消しゴムをかけてしまうんだと思いました。『曼陀羅華X』の文章を構成し始めたのはその半年後からです。

――実在の教団と事件を扱われる上で、どんなことを意識しましたか?

古川 当時のメディアの主流はテレビでした。教団の幹部数名はテレビの報道で連日のように顔写真や映像が流れていたので、資料を読んでいるとどうしてもそれが蘇ってきます。彼らは自分の知り合いでも友達でもないけれど、同じ時代に生きた人間なのだと思うと、距離を置いて扱えなくなってしまったんです。一度は書くのをやめようと思い、編集者と長い時間話し合って、雑誌に発表するのはやめると言ったこともありました。