言葉を扱うことで物の見方は変えられる

――古川さんは小説の持つ力はどういうものだと考えていらっしゃいますか?

古川 言葉の力です。ここ数年は、主にネットで言葉の力の悪い側面が出てしまっていますが……。それでやっと、言葉は簡単に人を殺すのだとみんなが気づいたと思います。言葉が人を殺せるということは、反対に癒したり生んだりすることもできるんです。言葉って、本気で発したら完全に相手に届く。届いた相手も返してくる。そこでぶつかったり議論になったとしても、言い負かしたり潰したりするのではなく、何か違うことを生んでいくという作業ができるということに、みんなが気づいていくのではないでしょうか。

――小説には言葉の力が宿っているということですね。

古川 小説の場合は、情景やキャラクターなどを介して与えられる言葉にはメッセージ以上のものがあって、それに惹かれたり気持ちよく感じたりして、何度も同じページを繰り返し読んだりする。その時に初めて、言葉にこそ自分とこの世界の橋渡しをしているものがあると気づくのだと思っています。そこを目指して今も小説を書き、これからも書いていきたいと思っています。

――古川さんの小説作品には古典や宗教、音楽などさまざまな要素があります。多様な世界を描かれる古川さんのインスピレーションの源は何なのでしょう?

古川 ほかの世界のカルチャーが大きいと思います。音楽を聴いたり、演劇を観たり、本を読む中で、一番面白く感じたのは知らない世界のことなんです。たとえば50年前のポーランドの歴史が出てくるような本を読んだりすると、僕はびっくりする訳です。全く知らない世界でも、その世界は本当にある。本当に暗い夜があって、違う言葉を喋っている人たちが必死に生きているような空気感がすっと挿入されたような小説を読んだときに、知らない歴史、知らない場所や言葉、そこで流れる音や匂いについて考えます。それは映像でも同じで、熱帯アフリカの奇妙な生き物を見たりするとうれしくなってくるんですよ。

――どういうことでしょうか?

古川 その生き物を生んだ環境は何なんだろう、その生き物を捉えたのは誰なんだろう、熱帯って何なんだろうと思いながら、それについて書かれた本を手に取っては新しい事実を知って愕然とする。自分が触れることができなくても、興味のある窓の一つひとつにできるだけ身体ごと入るようにして、小説の素材にしています。