広瀬すずにとって李相白監督の現場は女優としての原点

司会者の挨拶と共にステージの幕が開くと、金と銀の紙吹雪が舞い散る中、主要キャスト4人と監督が舞台に登場。

2016年の映画『怒り』以来、2度目の李監督作品の出演となる広瀬すずは、「あれから6年の間にいろんなことを経験して、価値観や芝居の感覚が変わりました」と語り、前作と比べて役者として成長したことをアピール。

そのうえで、「前作の『怒り』は当時の自分の限界すべてを出し切ることができて、映画作りや演じることを初めて知ることができた現場でした」と振り返り、李監督の現場が女優としての原点だったと述べる。

松坂桃李は「正式なオファーが届く前に、監督から『一度お会いしましょう』と声を掛けていただきました」と語り、監督から並々ならぬ期待が寄せられていたことを明かす。

実際に予告編の時点で、原作小説の読者から「文がここにいる!」と驚きの声が上がったと言われるぐらい、物語に陰影を投げかける文という複雑な人物を見事に体現。

しかし、当初は「文がどのような人物なのか、どんなに掘り下げても答えが見つからなくて、霧の中でもがいているような感じでした」と、役作りにおいて大きな壁が立ちはだかったという。それでも「監督からの提案で、文が住んでいた四畳半のアパートに実際に寝泊まりしました」と模索を繰り返し、慎重に役作りを重ねていった。その努力と信頼関係が見事に結実。肉体的特徴から内面まで肉薄して、生身の文を作り上げることに成功した。

本作が6年振りの監督作品となる李監督は、「コロナ禍という状況の中で映画を撮る難しさを痛感した」と語り、昨年2021年夏に撮影が行われたが、様々な要因から一度中断したことがあるという。「製作中止も頭によぎりましたが、この作品をなんとしても完成させようと奮闘してくれた全スタッフ・関係者の方々のおかげで今日という日を迎えることができました」と感謝を述べる。

さらに李監督は原作小説を「ただ綺麗な物語ではなく、今を生きる僕たちが直面している社会の状況が鋭い視線で描かれている」と分析する。本作の主人公である更紗と文の2人は、世間では被害者と加害者とされているが、虚像が独り歩きしていく中で、2人でしか分かち合えない不思議な宿命で結ばれていく。

その純粋な繋がりこそが、李監督がこの映画で描きたかったテーマであり、「名前が付けられない関係性で、人が人を求める力、魂と魂の結びつきを描いた美しい物語」と、本作を定義した。そして「何より広瀬すずの代表作を撮らねばと思いました」と付け加えて場内の笑いを誘うと共に、広瀬すずの将来性に対して李監督の期待の高さをうかがわせた。