ゲスの極み乙女。は替えがきかない、誰かが辞めたら終わってしまうバンド
――ゲスの極み乙女。は今年で10周年を迎えましたが、『丸』はそれを記念したグループ初のベストアルバムになります。
川谷 もともとベストアルバムは2018年頃に出すつもりで進めていて、すでにジャケットも撮っていました。ただサブスクが伸びていた時期だったので、ベストアルバムを出す意味はないのかなと思って、いったん方向転換してオリジナルアルバムの制作に向かいました。そのときにRemixもやってもらっていたので、かなり前から準備はできていました。ただ2020年にアルバム『ストリーミング、CD、レコード』を出したので、当然収録曲も変わりますし、外のチームに入ってもらってプロモーションの方法などを考える中で、「1曲入りのベストアルバム」という話も出てきて、みんなで話し合いながら徐々に進めていきました。
――サブスクが普及して、アルバム制作にも変化はありましたか?
川谷 外から見たら変化はあると思いますが、僕らはあんまり変わることなく、普通に4人で集まって曲を作ってという感じです。ゲスの極み乙女。に関しては、この3~4年間は外のことをあまり考えずに作っていて、「どういう曲がキャッチーだ」というような話から全く無関係のところにいました。メンバーは特にそういうことは考えていなかったと思いますが、僕が一人で地下に潜ろうとしていたので、当然そうなっていったというか。
――地下に潜るというと?
川谷 ベストアルバムをやめてアルバムを作っているうちに、今までのキャッチーなところから、脱却したかった気持ちがありました。ちゃんと音楽的なことをやっていても、音楽的に見られないことは大衆音楽では必ずあることです。ゲスを始めた頃は、もっと好きなことをやっていたはずなのに、いつの間にか無理している部分もあって、一回そういうのをやめてみようと。メンバーとは特にそういう話をしていませんが、敏感にそれを感じ取りながらやっていたと思います。
――ゲスの極み乙女。は初期からキャッチーでありながら、前衛的な要素もあって、そのバランスが絶妙だったと思いますが、そういうことは結成当時から意識していたのでしょうか?
川谷 初期は全く考えていませんでした。適当にやっていたことが、ちょうど時代にハマったというか、タイミングがよかったのかなと思います。ゲスを結成する前は、僕はインディゴぐらいしか経験がなかったので、もうちょっと遊びというか、ふざけられるバンドをやりたいというところから始まっています。本当に何も考えていなくて、たまの休みにライブをやって飲み会ができればいいねくらいのバンドでした。ただ、一緒にやりたかったメンバーと組んでいるので、お互いにリスペクトしていましたし、本当に替えがきかない、誰かが辞めたら終わってしまうバンドだと思います。
――Remix集には、STUTS、mabanuaなど、錚々たるミュージシャンが名を連ねていますが、完成されたものを聴いての印象はいかがでしたか?
川谷 改めてメロディーがいいなと思いました。どんなオケになってもメロディーが入ってくるというか、みんなそれを大事にしてくれているんだなと感じました。「キラーボール」なんて原曲とは全く違うBPMを落としたRemixになっているので、新曲のような気分で聴けて、アレンジって重要だなと思いましたし、いろいろな発見がありました。
――新曲「青い裸」は、ドラマ「復讐の未亡人」の主題歌として書き下ろされた曲です。
川谷 制作するときに映像はなかったので、台本だけ読み込んで、自分なりに解釈して作りました。かなりエグい内容の狂気的なドラマで、ゲスの今の世界観にピッタリで。無理に音楽性を寄せなくても、今作りたいものがちょうどドラマの内容と合っていました。歌詞も台本を読んで考えたんですが、ドラマのテーマが決まっているので、すんなり書けました。
――普段、歌詞はどのように考えるんですか?
川谷 日々の生活でメモを大量にとっているので、そのメモから膨らませることもあれば、本当に書きたいものがパッと見つかったときは、その場で書いたりもします。書きたいものが見つからないときは曲ができてから考えます。音を全部作って、歌える日程を決めて、それまでに歌詞を書きます。僕は締め切りがないと書けないですし、別の作業として歌詞を入れるほうが冷静に考えられます。
――締め切りまでに間に合わないといったことはありますか?
川谷 僕は自分の中で85点という曲でも出してしまいます。僕が85点と思うだけで、聴いた人の中では100点になる場合も50点になる場合もあります。自分の中で100点を目指していると、いつまで経っても曲を出せなくなりますから。それに時間をかけたからといって100点になる保証はないし、曲を思いついた時点で、それは100点じゃないかもしれない。自分の感覚を全部信じている訳でもないから、とりあえず種をまいておくというか。サブスク時代になり、時を超えて曲が聴かれるようになって、とりあえずライブラリにいっぱい曲があることが重要だなと思うんですよね。それに、たぶん100点の曲って何も考えていないときにパッとできるものだと思うんです。85点や90点を積み重ねた結果、たまに100点が出るというか。
――最初から100点だと確信した曲はありますか?
川谷 「ロマンスがありあまる」を思いついたときは、いろいろな意味で100点だなと思いました。そういう曲は100点なりの動き方をするというか、これは絶対に響くだろうなと思いました。自分の状況もありますが、それが分かるときがあるんです。