自分自身が侵略されているような感覚があった
――萩原さんは死恐怖症(タナトフォビア)を抱えた女子大生・史織、山谷さんは団地で出会った住人に洗脳されてしまう真帆と、それぞれクセの強いキャラクターを演じていらっしゃいますが、脚本を読んだとき、どんな印象を抱きましたか?
萩原 私自身、子どものときから、死んだらどうなるのかということについて頻繁に考えるタイプの人間で。夜寝るときに、このまま寝て起きなかったらどうなるんだろうとか、すべてが無って何だろうとか、幽霊になるっていう話もあるけど、なんで私には見えないんだろうとか、いろんなことを考えていました。なので史織のことも、それほど遠くには感じなかったんですけど、準備の段階で死恐怖症について調べれば調べるほど、死というものがあまりにも身近なものだから、毎日寝られなくなりました。死恐怖症の方のブログなども読んだのですが、「生き続けることも怖い」という記述を見たときに、死ぬことが怖いんじゃなくて、終わらない怖さというか、生きているのも辛いというのを知って、けっこう来るものがあって。普段は必ずイヤホンして歩くのに、携帯の電源も切った状態で、何の目的もなく3時間ぐらいフラフラとさまよったこともありました。
山谷 そんなことしてたの?大丈夫?(笑)。
萩原 なので(クランク)イン前が正直一番しんどかったです。死恐怖症というものを入れすぎて、自分自身がそうなってきていた面もありました。その人たちにとって当たり前になっていることが、読めば読むほど理解ができてしまったというか。今まで触れたことがない感覚だからこそ、すごくフラットに入ってきてしまって……。生きる、死ぬって日常で一番考えやすいことじゃないですか。だから、どんどん境目がなくなってきて、自分自身が侵略されているような、脳内がそのことでどんどんいっぱいになっていく感覚がありました。
――真帆はある意味、すごく純粋な女性ですよね。
山谷 目の前に起きたことを、すぐに信じるという面ではすごく純粋で、そこまで先のことだったり、自分の生や死についてだったりを深く考えないで生きてきた等身大の女の子だと思います。だからこそ人に影響されやすいという真帆の気持ちは私も理解できて。初めて台本を読んだとき、その影響されやすさが観る人の共感を生むポイントでもあるし、史織とは反対の色をお芝居に出したら、それぞれの色が出て面白いんじゃないかなと思いました。
――後藤監督から言われたことで、心に残っている言葉はありますか?
山谷 イン前なんですけど、衣装合わせのときに初めて後藤監督にお会いして、そのときに「死にたいって思ったことある?」と聞かれたんです。その言葉を、完成した作品を見たときに思い出して、今も心に残っています。死を肯定するのではなく、死とは何かというのを改めて考えさせられた一言でした。
萩原 言葉ではないんですけど、後藤監督の笑い声が良くも悪くも耳に残っています。萩原みのりとしては、後藤監督の笑い声が救いになる、自分に戻れる瞬間なんですけど、史織として聞くと、怖くてしょうがないんですよね。なぜなら史織が苦しめば苦しむほど、追い詰められれば追い詰められるほど、後藤監督は本当に嬉しそうで高らかに笑うんです(笑)。
――この映画は「“考察型”恐怖体験ホラー」と名付けられています。様々な解釈ができる作品ですが、後藤監督から意図の説明やアドバイスなどはありましたか?
萩原 いつも私は、その場で見たもの、感じたものだけを信じるようにしていて、疑問に思ったことはなるべく監督に聞くようにしています。でも史織に関しては、誰とも気持ちを共有できないことも必要なのかなと思ったので、あまり聞かないようにしていました。この映画には、いろんな仕掛けがあり、一度を見ただけでは理解できないような、何度も見てようやく気付くぐらいの仕掛けが細かいところに散りばめられています。いろんな伏線があるので、そこにも注目して楽しんでもらいたいです。
――最後に、今まで観たホラー映画で印象的だった作品を教えてください。
山谷 一番怖かったのは『エクソシスト』です。お母さんがホラー好きで、ホラー映画鑑賞会というのをやっているんですけど、「小さい頃に『エクソシスト』を観てトラウマになったから、ぜひ観てほしい」と言われて観たんです(笑)。実際、有名な逆立ちして階段を降りるシーンは、私もトラウマになりました。最近のホラー映画はCGなどを使った驚きがあるけど、そうじゃない、昔ながらのストレートな驚かし方は本当に怖かったです。
萩原 私は『永遠に美しく…』です。子どものときに、何の予備知識もなく観たんですが、お腹に穴が空くシーンを始め、いろんなシーンが頭に焼き付いていたんです。ただタイトルは記憶に残っていなかったので、最近、「お腹に穴が開くホラー映画」で検索したら、この映画が出てきて、久しぶりに観たんですよ。今見るとコメディ映画でもあるんですけど、死なない、老けない、綺麗なままでいたいみたいな主人公たちの姿が、子どもには衝撃的でしたね。
Information
『N号棟』
新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
萩原みのり 山谷花純 倉悠貴 / 岡部たかし 諏訪太朗 赤間麻里子 / 筒井真理子
脚本・監督:後藤庸介 音楽:Akiyoshi Yasuda 主題歌:DUSTCELL「INSIDE」(KAMITSUBAKI RECORD)
製作:「N号棟」製作委員会 制作:株式会社MinyMixCreati部 配給:SDP
©「N号棟」製作委員会
とある地方都市。かつて霊が出るという噂で有名だった廃団地。女子大生・史織(萩原みのり)が同じ大学に通う啓太(倉悠貴)・真帆(山谷花純)と共に興味本位で訪れると、なぜかそこには数多くの住人たちがいる。3人が調査を進めようとすると、突如激しい<怪奇ラップ現象>が起る。そして、目の前で住人が飛び降り自殺をしてしまう。驚く3人だが、住人たちは顔色一つ変えない。何が起きているのか理解できないまま、その後も続発する、自殺とラップ現象。住人たちは、恐怖する若者たちを優しく抱きしめ、仲間にしようと巧みに誘惑してくる。超常現象、臨死浮遊、霊の出現。「神秘的体験」に魅せられた啓太や真帆は洗脳されていく。仲間を失い、追い詰められた史織は、自殺者が運び込まれた建物内へ侵入するが、そこで彼女が見たものは、思いもよらぬものだった。
萩原みのり
1997年3月6日生まれ、愛知県出身。「放課後グルーヴ」(’13)でドラマデビュー後、映画『ルームメイト』(’13)で映画デビュー。その後、映画・テレビドラマなどで活躍。近作に『アンダードッグ』(‘20)『佐々木、イン、マイマイン』(’20)『花束みたいな恋をした』(‘21)『街の上で』(’21)『成れの果て』(‘21)など。その活躍は映画にとどまらず、ドラマ「RISKY」(‘21)「ただ離婚してないだけ」(’21)「ケイ×ヤク -あぶない相棒-」(‘22)舞台「裏切りの街」(‘22)などに出演。
山谷花純
1996年12月26日生まれ、宮城県出身。2007年、エイベックス主催のオーディションに合格、翌年ドラマ「CHANGE」でデビュー。18年、映画『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』では末期がん患者役に丸刈りで臨み注目される。その後も映画『耳を腐らせるほどの愛』(‘19)『人間失格 太宰治と3人の女たち』(‘19)『とんかつDJアゲ太郎』(’20)などに出演。ドラマ「私の正しいお兄ちゃん」(‘21)「liar」(’22)「鎌倉殿の13人」(’22)と映画以外にも出演作が続いている、今後の活躍が期待される若手女優。
Photographer:Toshimasa Takeda,Interviewer:Takahiro Iguchi