当初の脚本は3時間超分の超大作

――映画「辻占恋慕」では主演としてシンガーソングライターの月見ゆべしを演じられています。脚本を読んだときの印象をお聞かせください。

早織 2019年初めころに、大野大輔監督から出演依頼をいただきました。その時はざっくりとしたプロットがあっただけで、ミュージシャン側かマネージャー側どちらをやってみたいかも聞いてくださって。女性がミュージシャンとして我を通す映画は、邦画では少ないように感じられたので、ミュージシャンを演じたいと希望をお伝えしました。しばらくしていただいた初稿では、細かな会話の積み重ねがとても面白く、他に類を見ない“月見ゆべし”というキャラクターが躍動していて魅了されました。主演でオファーをいただくこともなかなかないですし、まさに幸運としか言いようがなく、人生において特別な作品になるのは間違いないと思いました。撮影自体は、2021年3月末から9日ほどだったのですが、お話をいただいた2019年から2021年までの3年間の中で、社会の変化、自分自身の変化、作品への思いが重層的になった末、撮影を完遂することができました。

――ラストのあたりのセリフは脚本通りでしたか?

早織 初稿では最後のライブハウスでのセリフはすべて上がっていなかったと思います。最終稿で固まったのではないかと。

――アドリブと聞いても違和感がないくらい、みなさんの台詞回しは自然でした。

早織 それが見てくださった方の印象だとしたら良かったです。激しい応酬ではなく、淡々とした中にちりばめられたユーモアが大野さん節なのかなと思っています。

――演じるゆべしに、ご自身が投影されていると感じることはありましたか?

早織 私にはこの月見ゆべしという人が自分にとても似ている人間に思えました。自分の人格の中に持っている要素が、肥大した形だと思います。私の中のすごくかたくななところ、譲れない気性がよく現れています。一方、他者に強くあたったり、独善的な態度に走ったりするのは好きではありません。だからゆべしには、自分自身の大切な部分も、反面教師にしたい部分もあるなと思っています。