『雌伏三十年』のキャラクターとエピソードはほぼ実話

──『雌伏三十年』、拝読させていただきました。面白かったことに加えて、非常に読みやすかったです。リズム感のある文章ですね。

マキタスポーツ 読みやすかったですか?それはすごくうれしい感想です。この小説は連載が終わってから6年くらい放置していたんですけど、久しぶりに読み返したら自分としてはすごく読みづらかったんですよ。連載していた当時は毎回締め切りに追われながら、グワーッと勢いで書けるだけ書いていたものですから。書籍化にあたっては、極力、読みやすくしようとしたんです。

──そもそも、なぜ小説を書くことになったんですか?

マキタスポーツ 『文學界』編集部の方から依頼をいただいたんです。小説なんて書いたことなかったから自信はなかったんですけど、「だったら、自伝小説はいかがですか?」と提案されまして。たしかに自伝だったら書けるかもしれないけど、「果たして自分の人生って他人から見て面白いものなのかな?」という部分で全然ピンと来なかったんですよね。だから一度、持ち帰らせていただきました。それでいろいろプロットなどを整理しているうちに、「自意識」をテーマにすればいけるかもしれないなと思ったんです。あとはマキタスポーツの人生そのまんまというより、「バンドマンの苦悩」という設定に変えることで書けるイメージが湧きましたね。

──読んだ人は、まさにそこが気になるポイントだと思います。「自伝的小説」と銘打っていますけど、どこまでがノンフィクションで、どこまでがフィクションなのか?

マキタスポーツ それに関して言うと、ほとんどがリアルな自分です。キャラクターとエピソードについては、ほぼ実話。逆に兄のキャラクターに関しては、かなり膨らませているかも。1人の女性を兄と奪い合ったとくだりは半分フィクションですかね。当時、兄と僕には幾人かの女性を交えてグループ交際的な繋がりがあって、その中には僕が想いを寄せていた人もいました。ただし、僕がつき合っていた恋人と兄がつき合うようになる……ということはなかったですね。

──実際に小説を執筆するにあたって、どんなことを意識しましたか?

マキタスポーツ 根本的な話として、「俺の人生ってエピソードとしてはそこまでドラマチックじゃないよな」という気持ちがあるんです。もっと波乱万丈な人生を歩んでいる人はたくさんいるじゃないですか。それなのに自伝小説をみなさんに読んでもらうということに、ためらいみたいなものがありまして……。

──十分に波乱万丈だと思いますけどね。

マキタスポーツ そのへんは自分でわからないものですから。話は変わるけど、僕は40歳を過ぎてから急に売れたんですね。だから売れている自分が嬉しくなっちゃって、調子に乗りながら来る仕事は全部受けていたんですよ。そのうちのひとつが、この仕事。本当にお恥ずかしい話なんですが、「『文學界』から小説のオファー?とうとうそんな話が来ちゃったか。やっぱり放っておかれないな、俺は!」みたいに自己陶酔しながら引き受けちゃいまして。ただ実際に始めてみたら、あまりにも作業のカロリー消費度が高すぎた(苦笑)。私小説というジャンルも今まであまり読んでいなかったですし。