本当の日常に近いラインまで寄せていくのは難しかった
――映画『わたし達はおとな』の脚本を初めて読んだときの感想から教えていただけますか。
木竜 会話の雰囲気やセリフが、今まで自分が触れてきた作品とは違って、新鮮だと感じました。純粋にすごく面白かったです。
――優実の役は、オーディションではなくオファーだったそうですね。
木竜 候補に挙げていただいて、「じゃあ一度お会いしましょうか」と加藤監督にホン読みという形でお会いしました。
――監督とお会いしたときに、本作についてどんなお話をされましたか?
木竜 最初にお会いしたときは特に何か言う訳ではなく、私がホンを読んでいるのを聞いている感じでした。この映画はリハーサルの期間を長めに取っていたんですけど、正式に出演が決まって初めてリハーサルに行ったとき、監督から「今回は『どれだけ隠すか』だから」というお話をされました。特に私の優実という役はそういう役だと言われて。あとは「日常や、普段の暮らしを撮りたいと思っている」と。それは自分の中で、撮影が終わるまでキーワードになっていましたね。
――隠すというのは、気持ちや感情をですか?
木竜 それも含めてですね。思っていること、言いたいこと、実際に伝えたこと、というのは全部違っている。人はそういうふうに複雑で多面的なはずなので、表裏だけではなく、たくさんの面を作っていきたいという風におっしゃっていました。なので演出も「ちょっと出過ぎ」「もう少し気持ちを出そう」という指示が多かったですね。
――その感情の出し方をリハーサルで詰めていったのですか。
木竜 そうですね。実際に撮影が始まってからも、どこまで隠すかを調整しながら演出していただきました。「隠す」というのが共通言語になっていた気がしています。相手役の藤原さんや他のキャストの方は、加藤監督の作品に何度か出演された方も多いのですが、私は初めてだったので、リハーサルで共通認識を持つための時間をたくさん取っていただきました。
――どれくらいの期間リハーサルをされたんですか?
木竜 2週間ぐらいです。ロケ地や家のセットの写真を見せていただきながら、会議室の椅子や机を家具の配置に見立てて、どう動くのかを確認しました。ここから水を取りに行って、こっちに座ってというふうに。普段、加藤監督がされている演劇の稽古に近い形でやっていましたね。
――感情を乗せすぎないような、今までの映画とは違う演出にはすぐ馴染めましたか?
木竜 自分で変えていこうというよりは、加藤組に入って、今回の作品で感じてほしいトーンだったり、出してほしい匂いや空気感を再現したいと思うようになりました。加藤監督は、もちろんヒントになるものは投げてくれますけど、細かく説明するというよりは、私にどう言ったらどう動くかを考えて接していただいていたんだと思います。
――他の皆さんにも同じようにされていたんですか?
木竜 それぞれの俳優さんによって伝え方を変えていたと思います。私は頭で考えるタイプなので、それに合わせてやってくださったというか。でも今回は、そこにただいるだけとか、相手との自然なやりとりに難しさを感じました。
――ただ立つだけでも、改めて普段通りを意識すると難しいということですか?
木竜 そうですね。他の作品では、シーンによっては目が散ってしまうからと仕草を減らすことも多いのですが、加藤監督は優実たちの日常を覗き見しているみたいな感覚で撮っていたので、仕草もどんどん増やしてほしいと言われました。「またすごく難しいことを言われている気がする」と思って(笑)。カメラがあってスタッフさんがいる中で、本当の日常に近いラインまで寄せていくのは難しかったですね。