生きていく上でのデコボコなところを見せてもらえた
――Huluオリジナル「あなたに聴かせたい歌があるんだ」は、田中さん演じる27歳の英語教師・望月かおりが、過去のグラビア写真を生徒たちによって晒されるという事件があり、それを契機に、その場にいた5人の生徒たちと教師の10年後が描かれます。初めて脚本を読んだときはどう感じましたか?
田中 第1話からガツーン!ときますよね。重い鉛のようなものを持って、そのまま成長していった27歳の生徒たちを描くというストーリーも刺激的でした。夢を持つことの価値観を、いいところだけじゃなくて、悩み苦しむところも自然な視点で描かれていて、そこがとても共感したところでした。事件がきっかけで教師の仕事を諦めたかおりの、その後の姿を丁寧に描かれているところも好きです。
――事件が起きた教室のシーンは、5人の生徒それぞれの視点から、ドラマ全体で幾度となく繰り返されます。
田中 あのシーンはカット数がすごく多かったんですよ。朝から晩までたっぷり撮影したので、結構体力のいる時間でした。
――同じシーンでありながら、その印象は生徒の視点によって微妙に違うところが斬新でした。
田中 そこは萩原健太郎監督からの演出が入っています。それぞれ生徒たちの記憶の中で思い出していくので、かおりが優しく儚げに言ったのか、それとも意志を持って言ったのかなど、生徒それぞれの印象によって違って見えるんですよね。撮影中に少しずつニュアンスを変えて演じたので、考えることもたくさんありました。
――かおりは教師を辞めて街を離れ、東京で派遣の仕事に就きますが、そこでも仕事、人間関係共に上手くいかずに追い込まれていきます。
田中 教師の仕事を辞めてから10年後、派遣で職場を転々としていて、どこに目標を定めていいのか分からないというような人生を送っている。夢だった教師の道を絶たれて、生きるためだけに仕事をしているような状態ですね。
――10年前の教師時代と、10年後に派遣社員をしているかおりでは、雰囲気や立ち居振る舞いが違っているなと感じました。
田中 彼女がショッキングな出来事があった後の10年間をどう過ごしてきたのかを、萩原監督から大まかに書いてある紙を事前に頂きました。自分でも想像を広げ、彼女の10年間が観てる方になんとなくでも、雰囲気から伝わるといいなと思いました。
――かおりは傷を負いつつも、しっかりと前を向いて生きていく意思が感じられますし、時にはユーモラスな一面を見せるところにも希望を感じました。
田中 それでも生きていくというか、辛いことの連続でもがきながらも、ちょっとうれしいことがあったら、やっぱり笑ってしまう。リアルなドラマで、生きていく上でのデコボコなところを見せてもらえた感覚はあります。
――完成したドラマを観て、どんな印象を受けましたか?
田中 いやー、素敵でしたね。27歳の男女5人がもがいていて、本人たちはどん底だったり、かっこ悪いなって思っていたりするんだろうけど、そこもいいんです。大変なことばかりだけど、それでも生きる、生きていくということが素敵だよねと思える、泣ける作品でした。