役作りのためにマッチングアプリに挑戦
――『人でなしの恋』の脚本を読んだときの感想を教えてください。
細田 まずラブストーリーができることの喜びがありました。江戸川乱歩が原作で、それを井上監督が現代版に書き起こした作品なんですが、男女の普遍性というか、時代を超えても変わらない人間模様が描かれていて、これが江戸川乱歩の持つすごさなんだろうなと思いました。
――出演が決まって、監督とはどんなお話をされましたか?
細田 監督がキーワードとしておっしゃっていたのは、「儚げな感じ」ということだったんです。「儚げ」ってあまり男性に使う言葉ではないので、どんな感じなんだろうと。撮影が始まる前に2日間ほどリハーサルをさせていただいたので、そこで実際にやってみて、「もうちょっとこうしようか」と合わせていきました。
――井上監督は乱歩作品を映像化したこともある故・石井輝男監督の弟子筋にもあたりますが、乱歩に対するこだわりを伺ったりしましたか?
細田 特にそういうことはなかったです。何度か映像化されている作品なので、「過去作を観た方がいいですか?」と聞いたのですが、監督は「現代版に落とし込んでいるから、むしろ観ないほうがいい」とおっしゃってくださったので、気にしすぎないようにしました。
――原作の小説は読まれましたか?
細田 今回、改めて読み返しました。監督がマッチングアプリという題材を持ってきているのが巧みで、普遍的なテーマを変えずに、ブラッシュアップされているなと感じました。
――細田さんが演じられた門野はどういう役でしょうか?
細田 門野は人づきあいが苦手で、ある秘密を抱えているんです。そのことで妻の京子を不安にさせてしまう。マッチングアプリを運営する会社に勤めているという役だったので、撮影現場全体で「マッチングアプリやってる?」が話題になって。僕も実際に、マッチングアプリに登録してみたんです。
――ご自分で登録したんですか?
細田 はい。プロフィールも一生懸命書いたんですよ。何の嘘も書いてなくて、そのまま自分として書いたんですけど、誰からもリアクションが来なくて(笑)。女性側が「いいね」を押してくれて、それに対して「いいね」をすると成立するんですけれども、全然「いいね」されない。こんなにも自分はモテないのかと……。
――顔写真は載せたのでしょうか?
細田 写真は載せてないんですが、プロフィールに関しては「大卒で、映像を作る仕事をしています」と、自分に近い人間が見たら僕だって分かるくらい詳細に書いたんですよ。そのままの自分が全く相手にしてもらえなかったので、すごくショックでした。向こうがこちらのプロフィールを閲覧した足跡だけは残っているんですよ。でも「いいね」は押さないんだなって(笑)。
――そんなに、自信を失うような経験だったんですね。
細田 (笑)。映画の中で門野もマッチングアプリでいろいろな人のプロフィールを見て、その中で京子に出会って、結婚までします。知らない者同士で会うということの感覚がどういうものかを知りたいというのもありました。
――冷やかしとかではなくで、本気でマッチングアプリをやってみたと?
細田 もちろんです!今回マッチングアプリの題材だから、ちょっとやってみようとやった訳じゃなく、僕もそこでいい出会いがあったらいいなという思いで真剣に挑んだ結果……。どんな恋愛でもやっぱり会ってみないと分からないし、話してみないと分からない。でもその段階に行けなかったという。大会に参加したかったけど、エントリー用紙だけで突き返された。そんな感じですよね……。
――マッチングアプリのどんなところに惹かれたんですか?まあマッチングに成功してないのに聞いて申し訳ないんですが……。
細田 本当ですよ(笑)。友達の紹介で知り合うと、なんとなくコミュニティが分かる訳じゃないですか。誰々の友達という時点で、そこにプロフィールが1つ載るというか。本当に相手の情報がゼロで出会うと、よくも悪くも自分の嫌いな部分を捨てることもできるんですよね。それがいいなと思ったんです。普段出会わないような方と出会う訳ですし、イチからやり直せるという意味でもいいですよね。
――写真を載せればもっとリアクションが来たんじゃないですか?
細田 そこなんですよ。もしもこれで写真公開して、それでもまったく来なかったらどうすれば……?と思って。だから今のまま「写真を公開してないから来ないんだ」ということにしておこうと(笑)。