6年間の執筆期間で遠い存在だった小説が、少し近いものになった

――初の小説『幸せのままで、 死んでくれ』は、書き上げるまでに6年ほどかかったそうですね。

清志 結果、それぐらいになっちゃいましたね。そもそも自分が小説を書くとは思ってなくて、今回最後まで付き合ってくれた編集者の方にお会いしたときに、「小説書いてみない?」と言われて、「いやいやいや」みたいにスタートしたのが5、6年前です。それまで小説は、自分にとって遠くにあった存在です。大学が社会学部だったので、人文系の本を読むことは多かったんですが、務めて小説を読むという感じでもなかったですしね。

――初小説とは思えないほど構成力や比喩表現が卓越していると感じました。

清志 いろいろなことがある上で、ちょっとずつ書き進めていったことが大きくて。その間に、他のところで文章を書く機会に恵まれて、自分が変化していったんです。それで約6年の時間を経た結果、すごく遠い存在だった小説が、少し近いものになったという実感があります。

――主人公が死を目前にして葛藤するストーリーは、構想の段階で決まっていたんですか?

清志 死というものを前にして、その人がきれいな感じで終わってしまうのは、どこか嘘があるんじゃないか、みたいな筋立ては最初の頃から考えていました。主人公を始めとしたキャラクター設定など、違うものもたくさんあったんですけど、人間というのは混濁していて、いろいろな面を持っているので、一面的な部分だけではなく、それが肯定できるような作品を作りたいというのも最初からありました。

――主人公の職業を男性アナウンサーにしたのは、どういう意図があったのでしょうか?

清志 まず人様から見られて、ある決まったイメージを持たれる存在ってどんな職業か考えてみたんです。そのときに最初に浮かんだのが、僕らに近い芸能の世界でした。でも、芸能の世界の人は、虚構のイメージを作るということに積極的だったり、腹が括れていたり、自分からその道に入っていく人が多いんですよね。そうではなく、いつの間にかそうなってしまったという人に設定できないかと考えたときに、男性アナウンサーはサラリーマンであり、職業上、目立ってはいけないという立ち居振る舞いもあるけれども、いつの間にか街を歩くと、みんなが振り向くような知名度が出てしまっている。自分から進んだ道じゃないのにそうなってしまっているという状況を表しやすい職業として、男性アナウンサーにしました。主人公の桜木は、どちらかというと地味で真面目な性格ですが、それにも合っている職業だなと思いましたし、人に誤解されていくサガを上手く書けたらいいなと。